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第6話
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両親は航空会社に勤務している。父は操縦士、母はキャビンアテンダント。ともにそこそこの地位にいる二人なので、あまり家に帰って来られない。中学生の頃はなんとか休みをずらしてどちらかが家に帰ってこられる日を作ってくれたりしたが、高校生になってからはほぼ毎日二人で過ごしていた。
「継、アレ取って?」
「ん、ちょい待って」
食器棚からバターナイフを出して創に手渡し、冷蔵庫へ向かう。
「オレンジジュースでいいよな?」
「うん、ありがと」
テーブルに並べられたトーストとオレンジジュース。器に盛られた白桃の缶詰めは、創の好物だ。
席に着くとぱしんと手を合わせた。
「「いただきます」」
毎朝の光景。特に何も言わなくても、お互いの事がわかる。
こうして二人で食事の支度をする時にも、とてもスムーズに事が運ぶ。
「今日は?」
「んー、試合前だし遅くなるかも」
「そっか。どうする?」
「もちろん待っててくれんだろ?」
答えを聞かずとも確信しているようで、トーストをかじりながらニヤリと笑う継。
軽くため息を零すと、創があーんと口を開ける。
「ははっ、ツバメみてえ」
そこへフォークに刺した白桃を突っ込むと、もぐもぐと咀嚼する創の頭を撫でた。
「決まり、な?」
「最初から決まってたでしょ…」
苦笑しながら残りのトーストを口に納めると、ジュースで流し込んだ。
空いた皿を創が下げてさっと洗い、身支度を整えて部屋へ戻る。
ブレザーを着てボタンを留めていた継が、これ、と何かを差し出した。
「今日これがいい」
「うん、わかった」
創が受け取ったのはピアノの楽譜。物心つく頃には既に鍵盤を叩いていた創は、音楽教師も惚れ惚れするほどの腕前だった。
放課後の音楽室は吹奏楽部が使っているため、帰宅部の創は特別に体育館のピアノを使わせてもらい、継の部活が終わるのを待っていた。
「創、ちゅーして?」
言いながらも、既に継の掌は創の腰を引き寄せていて。有無を言わさず引き寄せられた創が、その細く長い指で継の髪を梳く。
そっと唇を合わせると、はにかむように創がふわりと微笑んだ。
「ふふっ、大好きだよ、継」
「それはオレだって負けてねえから」
互いに唇を啄ばみ合いながら、指を絡めて部屋を後にした。
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