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この手で、瞳で、唇で、愛を伝えよう
☆☆☆☆☆
「創、デートしようぜ!」
ニコニコしながら、ソファで文庫本を読んでいる創の膝の上に横になる継。創の持っている文庫本を奪い取りテーブルに置くと、「あーっ、栞挟んでないのに!」と慌てる創の口元に人差し指をぷにっと宛てて、反対の手でひらりと紙切れを差し出した。
何かと思いそれを見てみれば、「リニューアルオープン記念ケーキバイキング」と派手な蛍光色と字体で書いてある。目をぱちくりと瞬かせる仕種に胸がぽかぽかとして、苦労して手に入れた甲斐があったと嬉しくなる。
「だって、これ、ノクチーのでしょ⁉︎どうしたの⁉︎」
「へへっ、エノの姉ちゃんがここでパティシエしてるって聞いて、エノに頼み込んだ」
駅前にある商業施設、その7階にあるケーキ屋のリニューアルオープンを記念して、一日限定でバイキングプランがあるというのは、甘党の創としてはもちろんチェック済みだった。けれどリニューアル前からかなりの人気店で、土日なんて普通に2時間待ち。
そんな人気店でクラスメイトの榎本の姉が働いているというのを聞き出した継が、必死に頼み込んで譲ってもらったのだ。もちろん、新学期が始まってからの一週間分のランチ食券を奢るのを余儀無くされたけれど、創とのデートを思えばそんなものどうという事はない。
「デート、しよ?」
「うん!」
★★★★★
すぐに身支度を整えて出掛ける。リニューアルオープンである今日は特別営業で、時間指定予約制らしい。チケット裏面のシリアルコードを店員が確認して、すぐにテーブルへと案内される。
目を輝かせる創の腰を引き寄せ、前から歩いてくる女性にぶつからないように避けてやる。というより、触らせたくなかったからだけれど。
席に通されてドリンクを注文すると、ずっとそわそわしていた創がちらりと継を窺い見る。
「ほら、行くぞ」
すっと創に差し伸べた手を掴み立ち上がる。嬉しそうに微笑んで、指を絡めてケーキコーナーへと歩き出した。
こうして家以外で手を繋ぐという事に、全く抵抗のない二人。幼い頃からそうしてきたし、周りからは仲の良い双子としか認識されない事もあり、特に恥ずかしいなどとは思っていない。
寧ろ並んで歩くのに手を繋がない事の方が不思議だった。
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