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課題と君を天秤にかけて
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静かな部屋に響くのは、紙の上を走るシャーペンの音。それがカタンと置かれると、盛大なため息が零れた。
テキストを開いたまま隣にいる創の肩を叩く。シャーペンの頭で下唇を押し潰していた創が、問題文に落としていた視線を上げる。
「なあなあ、これ分かんねえ」
「え、どれ?」
ここ、と指差した先の文章を視線で追う。少し細めた瞼が黒い瞳を覆い隠すと、すぐににこりと微笑んだ。
「ここはね、倒置法を使うんだよ」とそこに何やら書き込んで、ね?と首を傾けて継を見上げる。
見上げたところで、唇が重なった。…かと思ったが、すんでの所で間に細い指先が割り込んでいる。
「…なんだよ、ヤなのか?」
「ううん、でも今したら継止まんなくなっちゃうでしょ?」
ね?とくすくす笑いながら、かわりに継の頬へと唇を寄せる。
触れただけですぐに離れたそれは、一瞬だけれどとても熱くて、継の体温を上げるには十分だった。
「わっ、ちょ、待って待ってッ!」
「…なんで?」
「なんでって…部活ない日にちょっとでも課題終わらせないと…ね?」
「今日だけじゃないし」
ギシッと椅子を軋ませて継が身を乗り出してくるのを、慌てたように止める創。首筋に顔を埋めてくるのを押し返しはするけれども、脇腹をさまよう手のひらのせいで思い切り力を入れて抵抗する事ができない。
それをいい事に、熱を帯びた指先がTシャツの裾から侵入してくる。吸い付くように創の肌を這い、抵抗する力を奪う。
「ぁんっ…や、だめ…!」
「やだ」
「け、い……言う事、きけない?」
「…っ⁉︎」
このまま流されろ、なんて思いながらシャツをたくし上げたところで、甘い声がワントーン低くなった。
そろそろと顔を上げてみれば、少しだけ怒ったような目で見下ろしている。一気に冷や汗が背中を伝うのがわかった。
まずい、この顔をしてる時の創はちょっとまずい。今までの経験からそう判断すると、ゆっくりと手のひらをシャツから引き抜く。
「…継」
「はい………」
「いい子だから、先に今日の分の課題やっちゃおうね?」
「はい…」
さっきまでの態度とは一変して素直に聞き入れる継に満足したのか、ふわりといつものように微笑んで継の髪を撫でた創。
じっと見上げると、一瞬だけ継の額に唇が充てられた。
「…終わったら、ね?」
ちょん、と継の唇に人差し指の腹で触れて、再びシャーペンを握る。
「30分で終わらせるから!」と息巻く継に頷いて、二人でまた机に向かった。
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