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遠雷
【継side】
「いってらっしゃい」と送り出してくれてからわずか数時間後。今日は吹奏楽部の練習は休みで、オレだけ部活に来ていた。
午前中だけの練習で、今はカバンを背負って家まで猛ダッシュ。
さっきまでの晴天とは裏腹に、いきなり空が暗くなってざあざあ音を立てながら大粒の雨が降ってきた。
傘はない。別に濡れたってどうって事ないし。そんな事は全く問題ない。
心配なのは、一人で待ってる創。ホラー映画とかスプラッタなのとか平気で見ながらプリン食べれるくせに、雷だけは子供の頃から苦手だった。だから、いつでもオレがそばにいて手を握ってやってるのに。
「創っ!!」
走って走って、やっと辿り着いた玄関のドアを勢いよく開けると、そこには踞って膝を抱える創がいた。
オレが帰ってきたのに気付くとすぐに顔を上げて飛びついてくる。やべえ、可愛い…!
「おかえり…!」
「ん、ただいま。悪い、遅くなって」
ぶんぶんと胸に顔を埋めて首を振る創をぎゅっと抱きしめてやる。その体は少しだけ震えていて、顔を上げさせれば目は潤んでいた。
白い頬にぽたりとオレの髪から雫が垂れたのを見て、ようやく自分がびしょ濡れだったのを思い出す。
「ほら、濡れるから。風呂入ってくんな?」
「……やだ」
ぎゅっと縋り付いてくるのが、不謹慎だけど可愛いとか嬉しいとか思う。だって可愛いもんは可愛いんだからしょうがない。
一緒に入るかと聞けば、こくりと頷く創の髪に唇を寄せて、握りしめていた手のひらにオレの指を絡めた。
遠くで雷が鳴っている。でも、創を泣かせるのは、雷じゃなくてオレだけ。
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