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止まらないドキドキ

【継side】 「なに、オレが来たのそんな嬉しい?」 「…うん」 後ろから包み込むみたいに抱きしめて、わざと創の耳元でそう囁く。ふわりと嬉しそうに笑ってくれるから、こっちも胸がきゅんとする。 ああもう、なんでこんな可愛いんだよっ! 思わず腹に回した腕にぎゅっと力を込めれば、手のひらをそっと重ねてきた。なんだよこれ、オレにどうしろっての⁉︎ 嬉しくて幸せでニヤける顔を必死に抑えて、ちらっと視線を新井に向ける。ははっ、マジで悔しそう。お前には出来ないし、もちろんさせるつもりなんかないし。 「継、片付けるからちょっと待っててね?」 「おう、わかった」 するりと創の抜けた腕の中が冷やっとする。今まで抱きしめてたから、いなくなると寂しい。 ピアノに寄り掛かって創の背中を見つめてると、ふいに誰かが近付いてくる気配を感じた。誰か、なんて見なくてもわかるけどな。 「…継先輩」 「んー?」 「…………いえ、何でもないです」 「お前さ、創のピアノ聞いた事ある?」 「…中学の時の合唱祭とかで何度か」 ああ、あれか。あれも可愛かったな。ステージの端にあるピアノなのに、なぜか指揮者ではなく創にスポットライトが当たってた。 「みんなの為に出す音と、自分の為に出してくれる音、かなり違うぞ」 「っ、そんなの、ここにピアノがあるんだからこれからいくらでも…っ!」 「ねえよ。創がオレ以外の誰かの為に本気で感情込めてピアノ弾くなんて。この先ずっとない」 ポーン…白い鍵盤を叩くと、ふっと顔を上げた創がこっちを振り返ってにっこり微笑む。そして、「…あ、そうだ」と何かを思い付いたようにぱたぱたと足を鳴らしてやってきた。 オレの目の前まで来ると、じーっと上目遣いで覗き込んでくる。うわっ、超絶可愛い! でもこれは創のおねだりのポーズ。今まで一度だって断った事はないけどな。

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