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踊る音符

☆☆☆☆☆ 「ふふっ、久しぶりだね」 「そうだな、でもいきなり過ぎ」 こつん、と創の頭を軽く小突けば、「ごめんね、びっくりさせたくて」なんて嬉しそうに笑う。 鍵盤の前に並べた椅子に二人が座り、創が譜面を広げる。その横では、継が指先を握ったり広げたりして解し、それから鍵盤に指を置く。タッチを確かめるように一音ずつ音を出して、感触を思い出していた。 もともと継も一緒に習っていたピアノ。中学に入って本格的にバスケをするようになってからレッスンは受けてはいないが、それほど複雑な譜面でなければ初見でも弾ける。 数分目の前にある譜面に視線を向けた継が、徐に指を動かし始めた。ポロン、と控え目な音だったのが、次第に強くはっきりとした音に変わる。 暫くそうして音を出して満足したのか、指を止めて創の髪を撫でた。 「オッケー、イケる」 「本当?ありがとっ!」 ぎゅっと継に抱きつく創の背中をぽんぽんと叩きながら、ちらりと新井に目線をやれば、ぽかんと口を開けて見ていた。まさか継もピアノが弾けるとは思っていなかったのだろう。それは他の部員も同じで、片付けの手を止めていた。 そんな周りの反応を他所に、二人が鍵盤に指を置く。数秒見つめ合って創がにこりと微笑むと、二人の奏でる音符が踊り出した。
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