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君のハートを射てばいい
「参った、兄ちゃんもう勘弁してよ…」
屋台のおじさんが苦笑いしながら景品を袋に入れてくれてる。一回500円の射的でもらえるコルク弾は10発分で、今おれの腕の中には欲しかった犬のぬいぐるみが、そしてその袋には色んな景品が15個くらい入ってる。今は二回目に挑戦中で、残りのコルク弾はあと一発。
「創、あとどれ欲しい?」なんて聞いてくるけど、なんだかおじさんがちょっとだけ気の毒に思えた。でも目を細めて狙いを定める継はすごくかっこいい。
ぬいぐるみもお菓子も、欲しいなあ可愛いなあと思った時にはもうすでに継が撃ち落としていた。
その他に欲しいもの…うーん……あんまり物欲が強いわけでもないし、景品の並ぶひな壇の中から何か欲しいものって改めて聞かれても思いつかない。
「…継の他に欲しいものなんてないなあ」
「おっちゃん、今日はこれで勘弁してやる!」
パァン!ともう聞き慣れた音がして、ほっと安堵のため息をついたおじさんが最後に落ちた景品を袋に入れて継に渡してくれた。
「オレが撃ち落とされてんじゃん…」
少し赤い顔の継が何か言ってたけど、周りがうるさくてよく聞こえない。
「あーもう、今日は開店休業だぜ…」と手を振るおじさんにお礼を言って、二人でまた歩き出す。途中にあったゴミ箱にりんご飴の串を捨てようと継からちょっと離れたら、ぱしっと腕を掴まれた。
「創⁉︎」
「へ、なに?」
「何って…一人でどっか行くな」
どっかって…ゴミ箱?
そのまま指がきゅっと絡んできて、しっかりと手をつないだのを確認すると、うん、と頷く継が可笑しくてつい笑ってしまった。
「ゴミ捨てるだけだし、迷子にならないよ?」
「…手!つなぎたいの!オレは!」
さっきまで抱えていた犬のぬいぐるみも、おじさんがくれた袋にぎゅうぎゅうに押し込んだ継が満足そうに笑った。
ぬいぐるみ、ふわふわで抱きごこちよかったんだけど、でもやっぱり継が一番いい。改めてそう思うと、逞しい腕に擦り寄った。
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