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準備期間

【創side】 送っていくと言って聞かない継と別れて音楽室に入ると、手芸部部長の立川先輩がにこにこしながら手招きしてる。なんだろ? こんにちはと声を掛けようとした瞬間に、ばっと出された布。 「じゃじゃーん!完成!」 あ、そうか、吹奏楽部の方でも衣装を着なきゃいけなかったんだ。 ひらひらと揺れる濃紺のジャケットと、真っ白なプリーツスカート。そう、スカート…… うん、いいんだ別に。継が喜んでくれるなら何だってするし何だって着るよ。 ちょっと手直ししたいから合わせてみて、と言われ、シャツの上にジャケットを羽織り、ズボンを穿いたままスカートに足を通した。 「ふわあ、ひらひらだあ…」 中のズボンを脱ぐと、直接足に触れる裏地がくすぐったい。サイズもぴったりみたいで、さすが部長さんと感心する。だから部員のみんなもあんなに上手なんだね… 腕を上下に動かしてみても、肘や肩に突っ張る感じはない。うん、タクトも問題なく振れそう。 問題のスカートは継が駄々こねてくれたおかげて膝下までの丈だから、まあ大丈夫そうかな? 「似合うじゃない創ちゃん!」 「え、と…ありがとうございます?」 林先生がにこにこしながら言う。 けど、スカートが似合うって、やっぱりちょっとフクザツです…… 継が見たら、何て言ってくれるかなあ? 「うわあっ、創先輩っ!超可愛いですっ!!!!」 衣装の細部を見ていた立川先輩の後ろから、ちょっと興奮気味の新井君がやってきた。机に荷物を置くと、真っ直ぐにこちらに向かって来る。 うわあ、うわあ……!なんて言いながら周りを一周すると、突然前屈みになって廊下へ飛び出した。どうしたんだろ? 「若いわねぇ……」 「え?そりゃあ中学生ですからねえ…」 「ふふっ、創ちゃんはほーんと可愛いわねえ!」 ニヤニヤと笑う林先生。うーん、なんだろう? その隣では、まだギプス姿が痛々しい長峰さんが大きなため息を零していた。 練習を終えて片付けていると、いつものように継が迎えに来てくれる。いつもの事なんだけど、ドアから継が姿を見せるたびに毎日嬉しくなるんだよね。 たった数時間しか離れてないのに、こうやってまた会えるのが幸せ。 そう思うと、やっぱりおれは継が大好きなんだなあって改めて実感した。 「創、帰ろうぜ」 「うん。これ片付けちゃうからちょっと待ってて」 「ああ、ほら、準備室だろ?」 譜面台を折り畳むと、横からひょいっと持ち上げて行ってしまう。こういうスマートなところはカッコいいよね。 すぐに戻って来た継にお礼を言うと、くしゃりと髪を撫でられる。隣に並んで少しだけ見上げると、おでこにちゅっとキスしてくれた。 「えへへ、大好き!」 「おわっ!どうした?」 「なんでもなーい!」 そんな些細な事がすごく嬉しくて、継に抱きつく。いきなりだったのにしっかりと受け止めてくれて、継の腕が背中に回る。 ああ、ほんと幸せだなあ……
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