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積木祭

この学校には体育館が二つある。少し小さめの旧体育館と、広くて天井の高い新体育館。色々な行事に使われているこの新体育館で、吹奏楽部の演奏が行われる。 みんなが舞台入り口からそれぞれ楽器を運び込んでいると、向こうから人混みをかき分けて誰かが走って来る。誰か、なんて、誰かわかってるけど。おれがその姿を見間違えるはずが無い。たとえどんなにたくさん人がいたって、その中から見付けてみせる。 「創っ!」 煌びやかな執事の衣装が似合うその笑顔に見惚れていると、いつの間にかぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。うーん、走るの速いなあ、なんて感心していたら、耳元で囁く少し低い声に体が震える。 「……やべえ、超可愛い。今すぐ抱きたい」 「け、ぇ…」 「あーもう、誰にも見せたくない、閉じ込めときたいわ」 こうして独占欲を隠す事なく素直に気持ちを表してくれる継。大ちゃんにはわがままだって言われたりするけど、でもおれは嬉しい。だって、おれも同じ気持ちだもん。 今回の衣装はウィッグを外してるから、ありのままの髪を撫でてくれる。人工の物とは少し違う、さらさらと流れる音が耳元に響く。目を閉じてそれを聞いていると、不意に唇に何かが触れた。何か、なんて、やっぱりそれもわかってるけど。 今のおれ達の姿は、一般来場者から見たらただの男子生徒と女子生徒。キスしてたって別に変な目で見られる心配もない。もっとも、いつもの格好だって何も気にしないけど。 「……どろっどろにしてやりたい」 「うん、それは帰ってからね。立ってられなくなっちゃう」 「ははっ、確かに」 もう一度触れるだけのキスをしてくれると、コツンと額を合わせた。 ずっと見てるから。誰より近くでそう囁く継は、いつもより優しい目をしていた。
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