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積木祭

ステージに上がると、予め配置されていた椅子に袖からみんなが向かう。一番最後に登壇するおれは、一人ひとりと手のひらを合わせながらその背中を舞台袖から見送った。 みんなが配置に着いて楽器を手にしたのを見計らい、さっき継と触れ合わせた額を指先でそっと撫でてみる。 大丈夫、一人じゃない。 タクトを握ったまま、深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐きながらみんなを見渡した。 「さ、楽しもう!」 舞台袖にいる放送委員の人に合図をすると、開演のブザーが鳴り、ゆるゆると緞帳が上がっていく。半分ほど幕が上がったところで、一歩足を踏み出した。 背中越しに一般来場者と生徒達の拍手が送られて、お腹の辺りがぞわぞわする。 みんなが、見てる。 でも、たくさんの視線の中でも、たった一人だけ感じていればいいんだ。 ステージの中央まで進んで一礼すると、更に拍手が大きくなる。さあ、ここからが本番だ。 指揮台に上がってタクトを振ると、一斉に音が生まれていく。この瞬間がすごく好き。一人でピアノを弾くのも、こうしてみんなで奏でるのも、綺麗な音が出なくても、楽しみながら演奏できたらいいよね。それが誰かの為の音ならもっといい。 体を少し右に向けてちらりと目線を変える。最前列の一番端に、継がいてくれる。幕が上がった瞬間に、一番最初に目に入った。 継がいてくれるだけで嬉しくて幸せで、それが伝わるように精一杯楽しもう。 一曲目からみんなが手拍子をして、体育館では一体感のある演奏が出来てる。楽しいなあ。でも、おれ一人だけが楽しいだけじゃダメだよね。 演奏しているみんなの顔を見渡してみる。今は怪我をしているためにホイッスルで演奏に参加している長峰さんは、この文化祭の後に正式に部長となる。一時期はあんなに音のズレていた新井君も、今では一年生ながら力強い音を出す事が出来て、ムードメーカー的な存在になっていた。 たった数ヶ月だったけど、このメンバーの中に入れて良かったなあ。 そんな事が曲の合間に頭の中に過る。あっという間に最後の曲が終わり、たくさんの拍手が沸き起こった。 タクトを指揮台に置いて振り返る。体育館に拍手と歓声が響き渡るけれど、目に映るのはたった一人だけ。 立ち上がって手を叩き続ける来場者の皆さん。その中で足を踏み出した継が、ステージの真ん中、つまりおれの立っているすぐ下に歩いてきた。 「創、来いよ」 いつ見てもかっこいいのに、今の継はいつもより何倍もかっこいい。 両手を広げる継の腕を目掛けてステージ上から躊躇なく飛び込んだおれを、がっちりと受け止めて抱きしめてくれた。
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