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擦り切れた指先

コーチングは一対一で、という梅原の方針で、オレとダイスケは別メニューになった。グッジョブだ梅原! 本当のところ、ダイスケから言い出さなくてもこうするつもりだったらしい。 体育の授業を梅原が見ていたようで、いつもより良い動きのダイスケを集中的に育て上げる計画だそうだ。 日本では一般に夏休みか秋頃には三年生が引退する(らしい)ので、今後の課題は残りのメンバーでどうゲームを動かすかだ。そこに都合良く現れたオレが、期限付きではあるがダイスケの良さを引き出し、なおかつ苦手を克服する。 「こう?」 「ああ、もう少し脇を締めて…そう、」 ダイスケの苦手なシュートから始めようという事になり、まずはフォームを見直す。 他の奴の声が響いて聞こえないからともっともらしい理由をつけて、二人で体育館の外へ出た。 日本人は真面目だとよく言うけれど、本当だった。 オレの言葉を一言も聞き逃さないように、一生懸命に考えながら聞いている。しかも、きちんと目を見ながら。 正直、照れる。だってそうだろ、好きな人が自分と二人きりでいて、しかも熱い視線を送ってくるんだから。 「中でも外でも基本は同じで、体の軸がブレないように気を付けるんだ」 「ん…」 ダイスケの後ろに回り込み、腕を伸ばして肘を抑える。反対の手は腰の辺りに置き、こちらへ引き寄せた。 すると、いとも簡単に体が倒れ込んでくるから、両手でそれを受け止めた。 「ダイスケは少し筋力強化した方がいいな、体がブレやすい」 「っお、おう…」 わざとやってるの、ばれてないよな?
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