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上手なキスの誘い方

***** 「創、ちゅーして」 それはいつも突然に。 例えばそれが学校でも、道端でも、もちろん家の中でも。 今は帰りのホームルームが終わり、創が教科書をカバンに入れている時だった。 「いやいやいや、待ちなさいよあんた…」 そこにストップをかけたのが、誰あろう正木みずほ。彼女は双子の理解者であり協力者であり、そしてしっかり常識も併せ持つという、まさに神のような存在だ。 普段ならこんな状況では悠然として傍らでスマホを構え率先して連写するのだが、今回ばかりは違った。 創の机の上に広げてあるのは、日直の日誌。同じく日直である正木は、創がこの日誌の分担部分を書き終えなければ帰れないのだ。 「お兄ちゃん、先にこっち!」 「創、はやく」 「待てっつってんの!」 ばしばしと日誌を掌で叩く正木に苦笑しながら、長い指で白いページに文字を書き込んでいく創。自分の要求が今すぐに叶わないと悟った継が、不貞腐れたように隣の椅子に座って机の上に突っ伏した。 その背中をちらちらと見ながらも、忙しなく手を動かし続ける。ほんの数分だったのだけれど、二人にとっては数時間にさえ感じられるだろう。その間にもクラスメイト達は教室を出て行き、三人だけが残った。 カタン、とペンを置いて日誌を正木に手渡すと、提出してそのまま帰るからと鞄と日誌を持って教室を後にした。 「お待たせ、継」 「…………」 掛けられた声にも振り向かず、机にしがみ付くようにして拗ねたままの継。くい、とシャツの袖を引っ張ったところで、ようやく振り向いた。 ムスッとした、いかにも機嫌が悪そうな顔。けれども、どうしてそれを愛しく思ってしまうのか。 「ごめんね、遅くなって」 「……ん」 「ね、頑張って終わらせたから、ご褒美欲しいな?」 細く長い人指し指で自分の唇に触れる創の腕を引っ張って、体ごと抱き寄せる。特に抵抗もしない創は、たちまち継の膝の上に横抱きにされて、その暖かな体温に包まれた。 ふわりと微笑む創の柔らかなそこに触れると、お互いの熱が溶け合う。その瞬間が、二人とも好きだった。 「は、ぁ…」 「…創、もっと」 下唇を甘噛みしてやると、きゅっとシャツを掴んでいた指先に力が入る。奥の方で震える舌を捕らえて、吸い付くようになぞっていく。 ぴちゃぴちゃという濡れた音と熱い吐息が、創の耳に響く。時折り囁くように呼ばれる自分の名前を聞くたび、ひどく嬉しく感じていた。 「っふ…ぁ、継……」 「ヤバい、もっとしたいから早く帰ろうぜ」 くったりと力の抜けた創を軽々と抱き上げ、二人分の荷物もまとめて持つ。ほんのりと紅くなった顔をじっと見下ろして、その鼻先に触れるだけのキスを落とした。 ***** 正木さんはきっとドアの外から激写してるんだ(笑)
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