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見つけていく場所
【継side】
とある日の夕食後。昨日うちのクラスで配られた手紙が、テーブルの上に並べて置いてある。一枚はオレ、もう一枚は創。
旅行シーズンがひと段落ついたからか、父さんと母さんが珍しく休みが重なって、今目の前に座ってる。
「創も継も、よく考えたのか?」
「…オレは、正直まだよく分かんねえ」
「当たり前だ、17かそこらの子供が自分の将来サラッと決められるわけないだろうが」
「あら、このクッキー美味しいじゃない!」
「あっ、それね、小麦粉変えてみたんだ〜」
「創が焼いたクッキーだし、美味いに決まってんじゃん」
「父さんの子なんだし、美味いに決まってるじゃないか!」
いやいやいや、ちょっと待て。和み過ぎてね?一応コレ家族会議的なやつなんだけど。
テーブルの上に並べて置いてあるプリント。書き込まれてるのは創ので、白紙なのがオレの。
将来、とか、漠然とした言葉で言われてもなー。創は、そこらへんちゃんと考えてたのか…
「創は、さ…」
「ん?」
あーもう、クッキーはむはむしてる創クソ可愛いな。そんな顔でこっち見んなよ、勃つから。
並べられた創のプリントに目をやる。希望職種の欄には、幼稚園の先生って書いてあった。
「…ピアノ、辞めんの?」
「え?辞めないよ?」
はい、あーん、と口元へ差し出されたクッキーにぱくりと食い付くと、さっぱりした甘さがすぐに拡がっていく。うまー。
もぐもぐしてるオレを、創が嬉しそうに隣で眺めてるのがわかる。ああもう、可愛いんだよ!
「あのね、継がピアノ習いに行かなくなってから、発表会の連弾で小さい子の相手をするようになったんだけどね」
創が言うには。
中学に入ってからは本格的にバスケに打ち込むようになって、オレはピアノを習いに行かなくなった。まあ、創の付き添いでは行くけど。
今までオレとしか連弾をしなかったのを知ってるばあちゃん先生が、子供の【お手伝い】っていう形で発表会に参加させた。その頃から、小さい子供達と話したり遊んだりするのが楽しくなっていったみたいだ。
……なーんか、面白くない。
「オレの居場所を見ず知らずのガキに渡すなんてごめんだ」
「んー、おれもそのつもりは全くないんだけど…?」
「は?え?」
ちょっと待て、なんか混乱してきた。そんなオレの手を、創がぎゅっと握ってくれる。
「ほら、公園でたまに継もちっちゃい子にバスケ教えてあげるでしょ?」
そういえば。昔からよく行く公園にある、ストリートバスケのコート。いつもは大介と練習したり、そこら辺にいるやつらとゲームしたり。
小学生くらいの子供達に教えてやる事もある。あいつらは素直に言われたように動くから、上達するのが早いんだよな。できたよ!なんて嬉しそうに言われたら、こっちも嬉しくなる。
……あー、そっか。なんとなく、創の気持ちが分かったかも。
「ね?」
「…ん」
オレも同じなのかも。
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