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どんな時も
☆☆☆☆☆
もぞもぞと暖かい体を抱き寄せる。いつもこの体温に安心するはずなのに、なんだか今日は胸騒ぎがしていた。
そっと覗き込んだ頬はほんのり桜色に染まり、首筋は少ししっとりとしていて、まるで情事の最中を彷彿とさせる。
「…創?」
いつもなら深い眠りに落ちていてもその呼び掛けに反応するのに、今はそれがない。騒つく胸の動悸を抑えながら額に手のひらを宛ててみれば、風呂上がりのように温かい。
急いで布団から抜けリビングに置いてある薬箱から体温計を取り出し、冷蔵庫からスポーツドリンクとプリン、そして氷枕を持って戻る。
荒い呼吸を繰り返しているその胸元のボタンを2つほど外し、腋の下に体温計を挟み込む。タオルで包んだ氷枕を、汗で湿った後頭部を少しだけ上げて入れてやると、掠れた唸り声が聞こえた。
「はぁ……け、ぇ……?」
「ん、悪い、起こした」
「だい、じょぶ……けほっ」
咳き込んだ創の体をゆっくりと抱き起こすと、その体温の高さがよくわかる。そっと背中を摩って、スポーツドリンクのボトルを開けた。
ピピピッ…という音が鳴り、体温計を外す。その数値はいつもの創の体温よりもはるかに高い。
「口開けて」
熱のせいか潤んだ瞳でじっと見つめられるのに必死で堪えながら、開けたボトルの中身を自分で口に含み、熱い頬を引き寄せる。乾いてカサカサになった唇からゆっくりと流し込み、こくりと小さく喉が鳴るのを確認してから離れた。
体温計をケースにしまい、枕元のスマホを操作する。時刻はまだ朝の6時前だが、この時間なら確実に起きているだろう相手の名前が表示された。
「……おう、朝から悪い、オレ今日休むから」
『は?いきなり何言ってんだよ』
「創が熱出してさ…」
『マジか?ちょっ、母さん!創が熱出してんだって!』
電話の向こうでは、早朝だというのに寝起きではない大介の声が聞こえてくる。おそらくはこれからロードワークに出掛けるのだろう。
ばたばたと家の中を走り回る音がしたあと、相手の声が変わった。
『もしもし、継ちゃん?』
「あ、好美さん、おはよ」
『なに、創ちゃん熱あるんだって?何度?』
「8度6分」
『あらあら、薬は?水分摂れた?』
「薬はまだ、スポドリ少し飲ませただけ」
電話口であれこれと指示を聞きながら、クローゼットから新しいパジャマを引っ張り出す。こんな時に限って母親は長期の海外フライトに出ているので、第二の母とも言える大介の母に頼るのは当然だった。
家には車はあるが、もちろん運転は出来ない。創を病院に連れて行く事すら、今の継には出来なかった。
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