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どんな時も

「ん、わかった。ありがと、好美さん」 『何かあったら連絡するのよ?』 まるで自分の子供のように心配してくれていて、本当に頼もしい。そう思いながら通話を終了して、ぼーっと座ったままの創の傍に座って髪を梳く。 しっとりと湿ったそれは、いつものようにさらさらとした音を立てない。 「ほら、プリン食って薬飲もうな?」 「や…くすり、いらない」 「飲まなきゃ治んねえじゃん」 スリスリと継の肩口に擦り寄ってくるのを愛しく感じながらも、そこに触れる額の熱がいつもより高いのを実感させる。 いつもよりも潤んだ瞳で見上げてくるから、どうしても自分の鼓動も早くなってしまうのは仕方ない。そう自身に言い聞かせ、プリンのパッケージを開けて、一口分だけスプーンに乗せてやる。口元に持っていけば、まるで条件反射かのように創の唇が開く。 「む〜〜……だって…」 「ん?」 「治らなかったら、継がずっとそばにいてくれるもん…」 だから、治らなくていい。そう呟いて、きゅっとパジャマの裾を握りしめる熱い手のひらを取り、その指先に唇を寄せる。 「ンな事言うなって…オレ、けっこう我慢してんだぜ?」 「…ごめんなさい」 「だから、さ…?」 もう一度スプーンを口元に持っていき、まるで雛鳥のようにあーんと口を開けるそこに冷えたプリンを差し入れ、追い掛けるように人差し指でそこをなぞる。ゆっくりと、慈しむように優しいその所作が、いつもならお互いが昂められていくのを感じるのに、今はただ純粋に触れるだけ。 数回それを繰り返すと、何回めかで唇が開かなくなる。いくら大好きなプリンを大好きな継が食べさせていても、やはり食欲は落ちているようだった。継もそれを理解していて、無理強いはせず、ベッドサイドに置く。 「ほら、薬飲んで少し寝ような」 「ん…」 粉薬の袋を開けて、蠢く舌を見ないようにしながらそこへ入れてやる。袋と入れ替わりでスポーツドリンクを手に取り、一口含んで流し込む。 継と違って粉薬も飲める創だけれど、こうしてやらなければ飲まない。それが継にとっては嬉しくもあり、試練でもあり。 二、三度スポーツドリンクを飲ませたところで、その熱い体を横たえてやり、胸元まで布団を掛けてやる。 「けぇ…」 「ん?どした?」 「…いっしょに、ねる?」 「おう、当たり前だろ」 その答えに満足したのか、ふわりと幸せそうに笑う創の隣に潜り込み、そっと抱き寄せた。 いつものようにお互いの額を合わせる。優しくぽんぽんと背中を叩いてやれば、すぐに瞼がとろんとしてくるのがわかる。 「けぇ…だいす、き……」 「ん、オレも」 聞き慣れない浅く早い呼吸が、少しだけ深いものに変わる。首筋に掛かる吐息が熱い。 本当なら氷枕ではなく自分の腕の中で眠って欲しいのをなんとか堪えて、枕元に置いたタオルで汗を拭いてやった。 「悪い、創…オレ今ちょっと幸せかも」 無意識のうちに擦り寄ってくる熱い体を抱きしめて、不謹慎にもそんな事を考えてしまう自分のバカさに笑いが溢れる。けれど、こんな状態の時に自分を頼ってくれるのが、堪らなく嬉しかった。 子供の頃にもよく熱を出した創。息苦しいのかなかなか寝付けずにいる事も多く、すぐ近くにいたのに何も出来ないのが歯痒かった。だから、こうして素直に体を預けて、安心して眠ってくれる。ただそれだけでよかった。 「けど、やっぱ早く治れよな?」 いつものように甘い声で名前を呼んでほしいから。 いつものようにふわりと微笑んでほしいから。 いつものように思い切りぎゅっと抱きしめたいから。 どんな時でも、ずっと隣にいたいから。 そんな事を考えながら、継もゆっくりと瞳を閉じる。次に起きる時には、大好きなあの笑顔を見れる事を願いながら…
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