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わがまま猫にgrooming 2

「君の名前は?」  寝室からシーツを巻き付けて出てきた青年に、筧は声を掛ける。 「それに書いてない?」  起き抜けのせいか、少し鼻にかかった声で青年が尋ねる。  筧が手にした手紙は金城からで、目の前に置かれた大きな箱の中に入っていた。  プレゼントは部屋に届けてあると金城が言っていたので、部屋に入った時に気がついていたが、筧は開けずに放置していた。 「いや、レンタルペットをプレゼントするとしか書いてないよ」  差し出された手紙を受け取って、蓮はソファーの端に座った。  さっと読み下すと、金城や虎子ママと打ち合わせた内容通りでホッとする。 「蓮です」  筧に手紙を返しながら、蓮は名乗る。 「蓮くんね。それで君は本当に9月18日まで、ペットとして私の側にいるつもりなのかい?」  そう、蓮は金城から筧への誕生日プレゼントとして、9月15日から18日までの連休中、【wildcat】から貸し出された事になっている。  勿論【wildcat】はただのゲイバーだし売りを斡旋することはない。今回は常連の金城が仕事漬けの友人に癒しを与えたいと虎子ママに相談したのがきっかけだ。  たまたまその場にいた蓮も一緒に、温泉旅行や海外のリゾートでのんびりするはどうかと提案してみたが、金城が語る筧は、他人と一緒だと気を使うし、一人であればきっと書類整理したり、電話で部下に指示を出したりと結局仕事を始めてしまうらしい。 「学生の頃から穏やかな性格で、誰もあいつが怒ってるのを見たことがないんだよな」  金城の言葉を、蓮は信じられなかった。この世に怒ったことがないやつなんているわけがない。  そう蓮が伝えると「成る程、そういうのもありか」と、何やら金城は考えていたが「俺は怒らないに賭けるから、蓮は筧が仕事を忘れるほど振り回して、我が儘言って怒らせてみろ」と蓮に賭けを持ちかけた。  自分には無理だと蓮は断ったが、もし筧が怒ったら例の件考えてもいいぞと、金城に褒美をちらつかされてしまった。  見知らぬ男と数日間、朝から番まで過ごすなんて不安だ。実は筧はすごい嫌な奴かもしれないし、朝から晩まで一緒にいるとなれば、体の関係を強要されることも考えられる。  金城の示すご褒美は魅力的だが、自分を犠牲にしてまで価値があるのだろうか?  考え抜いた結果、蓮は箱の中に待機していた。  筧が箱に近付いたら、勢いよく飛び出すつもりだった。しかし筧は箱に近づいて来ず、うっすら差し込んでいた灯りも消えてしまった。それでもしばらく箱の中でじっとしていのだけれど、やがて我慢出来なくなった蓮は静かに箱から抜け出した。音を立てないよう気を付けながら筧を探すと、ベッドで寝ているではないか。 「もういいや、疲れた、寝る」  緊張したまま箱の中にいたから、身体中が凝っているし眠い。身に付けている全身タイツも窮屈でいい加減脱ぎたかった。  着替を持ってきていないから全裸のまま、蓮は筧の寝ているベッドに潜り込むと、なるべく端により筧に触れないよう小さく丸くなる。離れているのに体温が高いのか筧の温もりが背中に伝わってきて、蓮はすぐに眠りに落ちてしまった。  そんなふうに誕生日のサプライズ第二段は失敗に終わったのだ。 「僕は、そのつもりでいるんだけど。あなたは嫌ですか?」  ここで筧がレンタルしないと言えば、蓮は帰らなければならず賭けも終了だ。  そうなったとしても蓮にペナルティがある訳ではないし、逆にそうの方がいいはずなのだが…、何故か断られるのは嫌だと蓮は思っていた。 「嫌という訳ではなんだけど、ちょっと困ったかな」  嫌ではないと言ってくれたが、結局はそう言うことなんだ。 「ごめんなさい。僕、着替えて来ますね」  謝って、蓮は着替えようと立ち上がった。 「蓮くん、着替えってこれの事だよね」  そう言って筧が取り上げたのは、黒猫の全身タイツ。そうだった着替えはないから、これで帰るしかない。ある意味これが賭けに負けたペナルティかも、と蓮は真っ赤になる。 「取り敢えず着替えを買いに行くまでは、私ので悪いけどこの服で我慢して。服を買ったら何か食べに行こう。でもその前に軽くサンドイッチでも食べるかい?」  差し出された着替えを受け取ったものの、理解できずに蓮は小首を傾げる。そんな蓮に筧は手紙の一部を示して見せる。 『レンタル中のペットの衣食住は借り主が責任を持つ事』と書いてある。 「えーっと、じゃあレンタルしてくれるんですか?」  蓮は断られたとばっかり思っていたが、筧はレンタルを受け入れてくれたようだ。 「三日間よろしくね、蓮くん」  そう言って微笑んでくれた筧と過ごせる事を、確かに蓮は嬉しいと思っていたのである。

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