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きまぐれ猫にbreeding 1

 ホテルの目の前にあるショッピングセンターで、蓮は試着を繰り返していた。何着も着たり脱いだり、それを一時間以上続けている。女性ならともかく、男の服選びに長時間待たされれば、筧も怒るだろうと思ったのだ。  しかし筧は全く気にした様子もなく、女性店員とにこやかに会話している。 「最近の若い子は、本当にスタイルいいよね」 「お連れ様は、細身で手足が長くて、モデル体型でらっしゃるから」  店員の過剰な褒め言葉に「そうだねぇ」と、嬉しそうに笑いながら筧も、蓮が試着室から姿を表す度に、似合ってると誉める。  何を着ても似合ってると言うから、内心は面倒臭いと思ってるんだと蓮は思ったが、毎回上から下まで眺めては、このパンツにはさっきのグレーのシャツも似合うね等と筧がコーディネートしたりするから、適当に言っている訳ではないらしい。  怒る気配のない筧の笑顔をみて、この作戦はダメだと蓮は諦める。  普段はTシャツにジーンズという格好ばかりで、特に着道楽でもない蓮の方が、疲れてうんざりしていたからだ。 「筧さん。僕お腹すいた」 「ああ、もうこんな時間か、気がつかなかった、ゴメンね」  服を選ぶのに時間を掛けたのは蓮の方なのに、筧がすまなさそうに謝る。 「服はそれでいい?他に気に入ったものに着替えるかい」 「もう、どれでもいい」  そんな可愛いげのない蓮の返事に、側にいた女性店員の頬がひきつったが、次いで掛けられた筧の言葉に彼女は満面の笑みを見せた。 「この服はこのまま着るので、残りは全て向かいのホテルに届けて貰えるかな」 「はい、もちろんです。では、こちらへ」  清算のため店員の後を付いて行く筧の背中を、蓮は呆気に取られて見ていた。 「残りはって、まさか試着したもの全部買うつもり?」 ※ ※ ※ ※ ※  その後、遅いランチを済ませた二人は、アメリカンビレッジと呼ばれるタウンリゾート内を散策していた。筧が泊まっているホテル自体もそのタウンリゾート内にあったから、時間を気にせずゆっくり過ごせる。  ファッションには疎い蓮だったが、雑貨や植物が好きだった。特にそれを教えた訳でもないのに、筧は雑貨店を見付けると立ち止まってくれる。多分ランチを取ったカフェで、飾られた小物や食器をみては可愛いとか、便利そうだなと呟いているのを聞いていたのだろう。 「蓮くん、ちょっと寄ってみてもいいかな」  そう言って筧が指差したのは、ホームセンター内のガーデニングコーナーだった。 「僕は、いいけど…筧さんはつまらないんじゃない」  ずっと思っていたことを蓮は聞いてみる。  金城に聞いた話では、筧は47歳独身で、恋人はなし。実家は大きな企業の創業者一族で、筧もいづれはその企業を継ぐらしいが、今は自身が大学生の頃に興した会社の社長を務めている。  セレブな生まれや180㎝越えの長身に引き締まった体躯、目鼻立ちの整ったハンサムな容姿に優しい性格とくれば、モテない方がおかしい。若い頃から恋人が絶える間はなく、女性だけではなく男性の恋人がいた事もあったらしい。  そんな遊び慣れた、いろいろな経験を積んだであろう大人の男が、ニ周りも年下で何の面白味もない僕なんかと過ごしても退屈に違いないと蓮は思う。退屈すぎて怒ってくれれば、金城との賭けも終了し、筧を解放する事もできるのにとも考える。 「どうして?そんなことないよ。緑を見ると癒されるしね」  筧は、項垂れる蓮の手をそっと握った。 「蓮くんが気に入るものがあったら教えて。ほら、行くよ」  筧に引っ張られ蓮は歩き出した。  蓮の事をつまらないと思っても、このペット契約を続けてくれるのだろうか?  もしそうなら、筧を怒らせなければ、契約期間ギリギリまで側にいられるんだと蓮は考えていた。

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