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きまぐれ猫にbreeding 2

 一旦ホテルに戻った二人は、ディナーに出掛けるため身支度を整えた。  部屋には幾つものショップバッグが届けられており、その中から筧が選んだ服に蓮は着替えた。  食前酒に飲んだシャンパンと、極自然に受け続けていた筧のエスコートに蓮のガードは緩んでいた。  この男の側にいれば、いい気分で安全に過ごせる。そう刷り込まれた一日だった。 「それでね、僕あれに乗りたいって言ったんだけど」  ディナーの席で自分の生まれ育ち、今の状況を自ら語りだした蓮は、ホテルに帰る道すがら一年ほど前に破局した恋人とのエピソードを話していた。  蓮が指差したのは、アメリンカンビレッジ内の何処からでも、その姿を見ることが出来る観覧車であった。夢見心地で足元が覚束ない様子の蓮を、支えるようにして歩いていた筧も足を止めて振り返る。 「そしたらさ。そいつ何て言ったと思う」  見上げた夜空に観覧車のネオンが明滅する。  尋ねる蓮の口調は明るかったが、その表情から彼が傷つくような事を言われたのだろうと検討が付いた。 「恥ずかしいって。何で男とデートしなきゃいけないんだって」  真剣な付き合いだと思っていた蓮と、都合のいい性欲処理の相手としか思っていなかた恋人の本音を、その時始めて蓮は知った。  ショックで泣き明かし、食事も喉を通らない日々が続いた。数ヵ月もたてば涙も流れなくなったし、普通にお腹も空くようになったが、それ以来、恋人はおろか同姓の友人を作ることさえ、出来なくなってしまった。だから客として通っていた【wildcat】で虎子ママにバイトに誘われた時は、切なく人恋しい夜をやり過ごせるならいいやとOKしたのだ。 「蓮、行くよ」  そう言って歩き出した筧に手を引っ張られ、たどり着いたのは観覧車乗り場だ。数組のカップルが順番を待って並んでいる。 「待って、筧さん。手、放して」  人目を気にした蓮が繋いでいる手を振りほどこうとするも、筧の大きな手はそれを許さず逆に恋人繋ぎで握り直された。 「いいから、ほら」  促されて列の最後尾に並ぶと、それほど待たずに二人の順番が回ってくる。係員に誘導され乗り込む時も、筧は蓮の手を放さなかったし、観覧車の中でも隣に座ってくれた。  好きな人に傷付けられた自分を、慰める為だけの行動だと解ってる。  それでも、蓮の心臓は鼓動を早め、身体中が熱を持ち始める。火照ってた顔を見られたくなくて、蓮は眼下の灯りを見下ろしていたが、ゴンドラが頂上に差し掛かった時、筧にそっと引き寄せられた。 「蓮、こっち向いて」  耳元で囁く筧の声に、蓮は期待なんかしちゃダメだと、自分を戒めながら振り返った。  蓮を見つめる瞳が近づいてくる。 「あっあの、筧さん?」 「しぃっ」  狼狽える蓮の唇に筧は人差し指を添える。  恥ずかしさに目を閉じた蓮の唇に、待ちわびた感触が落とされたのであった。

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