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第4話

奇跡のような夜から十五年の歳月が経とうとしていた。 あの日以来、慎吾と雅己の生活は激変した。 それまで出世を望むことなく、ぬるま湯のような平穏なポジションを保守していた雅己は、何の予兆もないまま外資系商社にヘッドハンティングされた。 “能ある鷹は爪を隠す”と言わんばかりに、その企業にそれまで自分でも気づかなかったビジネスの才能を見出され、異例と言える速さで出世し、今では専務取締役兼マーケティング経営部の部長として、その手腕を存分に発揮している。 そして慎吾もまた、一年後に純血のα種である男の子を出産し育児の傍ら商社勤務を続けていたが、雅己たっての願いで商社を辞め、今は妊活に励んでいた。 急激に進んだ少子化により、低年齢での出産・育児が合法化し、高齢出産も医学の進歩によって安全かつ問題なく行われるようになった今、二人目を望む雅己と息子の期待は大きい。 名家の出身で今の仕事に就いている雅己にとって金銭的な問題はもはや眼中にはない。 慎吾の為であれば周産期医療で有名な病院を探し、担当するスタッフも精鋭を揃えることが出来る。 何より、純血のαは数が非常に少なく、それを生むことが出来るΩは国を挙げて保護されているのだ。 「――っあ、そんなところ……ダメ……いやぁっ」  シーツが擦れる音と、吐息が混じった甘い嬌声が寝室に響いた。  以前住んでいたマンションを引き払い、郊外に立てられた豪邸の二階に慎吾と雅己の寝室はあった。  まだ陽も沈み切らない時間、慎吾は年を重ねたとは思えない滑らかな白い肌を艶めかしくくねらせた。 「もうすぐ発情期だろ?タイミング法ってヤツ……担当医から聞いてきたから」  大きく広げられた股の間から嬉しそうに顔を覗かせたのは、二人の息子である大輝(だいき)だった。  天使とこの世での再会を願って、死んだ雅己の兄と同じ名を最愛の息子に付けた。  父親譲りのこげ茶色の髪と、慎吾に似て繊細な顔立ちは紛れもなく二人の子供だ。  二重瞼の奥の黒い瞳は光の加減によって青緑に見える。その瞳に見つめられると、なぜか慎吾は抗うことが出来なくなる。  だから今もこうして、膝裏を膝裏を押さえられたまま双丘の奥の蕾に舌を這わすことを許している。 「はぁ……大輝っ。雅己が……帰って来ちゃうっ」 「父さんだけに任せておけないからね。それに父さんだけじゃ母さんを妊娠させられない。俺がいなくちゃダメなんだから……」  意味深に笑う大輝は赤い舌先で蕾を抉った。 「ひぁぁぁっ」  ビクンと体を跳ねさせた慎吾は羽枕に頬を埋めた。乱れた髪が白い首にはりつき、そこには雅己のものではないもう一つの“噛み痕”があった。 「――あぁ。ホントにキレイだよ……母さん」  大輝は体を起こすと、着ていた制服のワイシャツとスラックスを脱ぎ捨てると、筋肉質の若い体を惜しげもなく晒した。  十五歳とは思えない長身と出来上がった体は慎吾の目を釘付けにさせた。  一般的な種族であるβとは比べ物にならないほど、純血のαの成長は著しい。  この年齢で、体だけでなく精神や、すでに生殖機能までもが完成されている。  引き締まった下肢に凶暴とも言える長大なペニス。下生えも雅己のそれと大差ない。  それを片手で扱き上げながらベッドに両膝をついた大輝は、慎吾の腿の内側にキスを繰り返した。 「――俺は母さんを愛している。もちろん父さんもね。“運命の番”は絶対なんだよ……」 「あぁ……“ダイキ”来て……っ。あなたが欲しい……っ」 「ホント、オネダリ上手だよね……。あの時と全く変わらないよ――」  透明な蜜を纏ったペニスをヒクつく蕾に押し当てて、グッと先端を打ち込む。  その衝撃に逃げる腰を掴み寄せて、大輝は慎吾に体を重ねると、首筋に残された噛み痕に唇を押し当てた。  同時に躊躇なく最奥へと楔を打ち付けると、顎を仰け反らせて慎吾が達した。 「あぁ、は……っん!」 「――慎吾。愛しい我が伴侶……」  それまでの明るく溌溂とした声とはまるで違う――そう、天使であり雅己の兄である“ダイキ”の声だった。  あの夜、天使としての職務を全うしたダイキは、二人の強い願いと自らの子種によって二人の子供として転生した。  噛み痕を残した伴侶であるはずの慎吾に手も出せないもどかしい幼少期を経て、精通を迎えると同時に慎吾の体を求めるようになった。最初のうちは戸惑いを見せていた慎吾だったが、最愛の伴侶であると納得すると息子であるという概念は彼の中から消えた。  もちろん、父親であり弟である雅己は承知の上だ。  ゆるゆると腰を動かす彼の背に手を回した慎吾は、気を失いそうな快感に何度も爪を立てる。  大輝はその痛みも悦びに思えるほど、実の母である慎吾を愛していた。  弟が欲しい――それは世間的には喜ばしいことであり、決して嘘ではない。  だが、大輝の真意は少し違っていた。伴侶との間に自分の子を成したいと思うのはα種として至極当たり前の事だった。  しかし、神様はそう易々とダイキの望みを全部叶えてはくれなかった。 「あぁ……ダメ……も、イッ……イッちゃう!」  何度目の射精だろう。慎吾は全身を小刻みに痙攣させ絶頂を迎える。  激しく擦っていた内壁がキュッと締まり、大輝もまた低く呻きながら眉を顰めた。 「やば……出るっ――んあぁぁ!」  短い狼の牙を剥き出し、慎吾の中に自身の分身を大量に吐き出す。  その熱さに、慎吾は小さく身を跳ねさせてから、ぐったりとシーツに身を沈めた。  意識を失った慎吾にキスを繰り返し、大輝は未だに貪欲に求める蕾から楔を引き抜くとベッドから下りた。  そして、床に散らかっている自らの制服を集めて寝室を出るとバスルームに向かった。

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