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第30話 しょっぱい涙
「……ゆみ。歩」
「ん……」
鋭く揺さぶられて、目を覚ます。
「慶二……?」
今日は遅くなるから先に寝ていろ、と電話があって、深く眠りについていた。ヘッドボードの灯りが点けられ、ぼんやりと慶二が見える。
窓は遮光カーテンだから、朝なのか夜なのか分からなくて、取り敢えず瞼を擦りながら呟いた。
「おかえり、慶二。おはよう」
「まだ夜だ」
え? かけ時計を見上げると、二時半過ぎだった。
「どうしたの?」
身を起こしてようやく、酷く焦ったような慶二の表情に気付く。
「実は、ロシアのダイアモンド鉱山で、大きな事故が起こった。俺は責任者として、しばらく対応に追われる。歩」
急に抱き竦められて、切羽詰まった声で呼ばれて、事の重大さをじわじわと知る。
「え……どのくらいの間?」
「分からない。大事故だというだけで、情報が錯綜していて、詳細は入ってきていない。数週間か、数ヶ月か、数年か」
僕はその言葉にショックを受ける。そんなに長い間、会えないの……?
慶二は膝でギシリとベッドに乗り上げ、僕の胸に手をついてやんわりと押し倒した。
「んっ」
唇が吸われる。いつもの優しい啄むようなキスじゃなく、荒々しく奪われる事に、僅かに恐怖を感じる。
慶二の綺麗で器用な指が、気が付いたらパジャマの前を開いてた。
「歩、すまない。この先何ヶ月もお前を抱けないなんて、耐えられない。貰うぞ」
「え……あっ」
破きかねない勢いで、パジャマの下が、下着ごと取り去られる。
慶二は、いつもの落ち着いたクールな慶二じゃなかった。
「貰うぞ」っていう言葉は同意の確認じゃなく、一方的な宣言。
ベッドヘッドの引き出しから何かのボトルを出したと思ったら、冷たい感触が後ろにぬめった。
「ひゃ」
冷たさと、未知の感覚に、変な声が出ちゃう。ぬるぬると後ろの孔 を撫でたかと思ったら、異物感がした。指? 入れてる?
かろうじて知識はあったけど、こんなに苦しいと思わなかった。押し拡げられるような動きを感じて、指が一本じゃない事に驚く。初めてなのに……!
「あ・や・慶二、やめっ……」
息苦しさと、レイプのような性急な行為に、目尻にじわりと涙が滲む。
「少し我慢しろ。今、悦 くしてやる……」
囁いたかと思ったら、中の指が探るように腸壁を撫でて、一点に触れた時、自分でもビックリするくらい身体が跳ねた。
「アッ!」
「ここか」
慶二のスベスベした指の腹が、内部のイイ所を撫でたり突いたり、だんだん激しく動き出す。
僕は何も考えられなくなって、ただ身体を震わせた。
「ハ・やぁ・んっ」
「もう良いな」
異物感がなくなる。快感ではなく、内臓ごと持っていかれそうな喪失感に、僕はしゃくり上げた。
だけどいつもの慶二とは別人みたいに、優しい言葉がかけられる事はなく、ジッパーの下ろされるジーッという音だけが、薄闇の中にやけに大きく響く。
両の膝頭に手がかかって、M字開脚させられた途端、もっと激しい息苦しさが襲ってきた。
「や・慶二、嫌ぁっ」
「すまない、歩……歩」
うわ言のように呼ばれて、それは僕の好きなセクシーなバリトンの筈なのに、苦渋の響きの方が勝 って僕も苦しくなる。
やがて思い出したように、片手で分身も扱かれ、少しずつ突き上げられた。
どんなに心で抗っても、生理的な反応には勝てない。
後ろでは前立腺を擦られ、前も扱かれては、否が応にも体温が上がっていく。
「アッ・ん・はぁんっ・やぁ・慶二、イく……っ!」
「俺もイく」
滅茶苦茶に揺さぶられ、顎がガクガクと上下する。その瞬間は、確かに気持ち良かった。
「アァンッ・ヤァア――……ッ!!」
天も地も分からないほど、激しく突き上げられる。
白濁が腹筋に打ち付けられると、僕の、慶二を受け入れてるとこが、勝手にきゅうきゅうと収縮した。
「歩っ……イイな」
後はもう、何が何だか定かでなかった。
イったばかりの敏感な内部を注挿され、飲み込みきれない唾液が顎を伝う。
「ふぁっ・アッア、だめっ……」
「イくっ……!!」
強くお尻に腰が打ち付けられ、乾いた音がパンッと数回、高い天井に響いた。
「ヒッ」
最後の瞬間、思い切りズルリと引き抜かれる感触に、また鳥肌を立てる。
僕の腹筋の上で、二人分の白濁が混ざり合った。
「はぁ……」
「ひっく……う」
慶二が深く満足の息を吐いたけど、僕は涙と唾液でぐしゃぐしゃの顔だった。
「歩……すまない。愛してる」
そう早口に行って、唇が触れ合った。でも僕は泣いてたから、応えるどころじゃない。
慶二はもう一度一方的にキスすると、ティッシュで素早く分身を拭って、ジッパーを上げた。
「歩、落ち着いたら電話する」
そう言って、乱れた僕を一人残して部屋を出ていった。
しばらく息を乱して白い天井を見詰めてたけど、シャワーを浴びなきゃと上半身を起こしたら、おへそのくぼみに溜まってた精液がドロリと流れ落ちて、気持ちが悪かった。
「う……」
自分でも、何で泣いてるのか分からなかったけど、酷く傷付いてるのは確かだった。
後から後から涙が溢れてきて、口の中にも入ってきてしょっぱい。
「うぇぇえ……」
僕はその晩、泣き疲れるまで声を上げ続けた。
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