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第48話 近づくキョリ

「なぁ、教科書忘れたから見せて」 「うん、いいよ」 勉強合宿から約1ヶ月。 学校に戻ってきた数日後、ぼくたちのクラスは席替えをした。 今の席は窓際で日当たりも良く、1番後ろという特等席であったから、正直このままがいいなーなんて思ったけど、やはり蓮くんの隣に座ることも心のどこかで少しばかりは願っていたんだ。 その結果……窓際から少し離れたものの、1番後ろで蓮くんの隣の席に! 一生分の運を使い果たしたんじゃ……って思うけど、それでもいい。 だってあの日からぼくは、毎日教室に行くことが楽しみで仕方がないんだからーー。 合宿での出来事で蓮くんには嫌われた、距離を置かれると勝手に思い込んでいたぼくだったが、現実はそれとは全く反対のことが起きていた。 隣が席になってから、時間があるときーーいや、授業中でもこっそり声をかけてくれるようになった蓮くん。 先生にバレない様、少し掠れた「なずな」と小さく呼ぶ声に、ぼくは未だに慣れずにいた。 そして今は、忘れ物をした蓮くんにも教科書を見せてあげるために、席をくっ付けて座っている。 いつもより近い距離と彼の匂い。バレないように……と思いながら蓮くんの方を向くが、バッチリ目が合ってしまった。 顔を反らすよりも先に、蓮くんがふわっと綺麗に笑うから、思わず見惚れてしまう。 あの日から彼は、ぼくの前で綺麗に笑ってくれるようにもなったんだ。 握っていたシャーペンで、ぼくの教科書の端に何かを書き始める蓮くん。ぼくは黙って、それが書き終わるのを待っていた。 「……あっ。うんっ!」 あまりの嬉しさに声を出して答えてしまい、急いで口元を押さえる。 そんなぼくを見て、くすっと笑う蓮くん。 「ここ、次のテストに出すからよーく見ておけー!」 先生の言葉で互いに黒板の方へ視線を戻す。 【今日、一緒に昼食べない?】 蓮くんからの突然のお誘いに、ぼくの心は少し遅めのぽかぽか春を迎えていた。

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