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第3話
この気持ちに気づいたのは、ちょうど一年前だった。
友人と話しながら教室移動をしていたぼく。
廊下の角を曲がる時、前から来た人とぶつかり、持っていた教科書などをぶちまけながら、尻もちをついてしまった。
「いててて……」
「悪い、よそ見してて気づかなかった」
謝りながら、ぼくの荷物を拾い集めてくれた彼は、すっと手を差し伸べてくれた。
「もー、なずな君何やってんの?」
「ヒュー! 蓮ってばカッコいい?」
側にいるはずなのに、ぼくや彼の友人の声が遠くで聞こえる。
声だけじゃない。この世界には、彼とぼくしかいないんじゃ……そう思えるような空間に感じた。
そして、差し伸べられた彼の手を掴んだ時、ぼくの体には電流のようなものが流れたんだ。
「これで全部だよな? 次の授業、頑張れよ」
そう言って一緒にいた友人たちと去って行く彼。
チャイムが鳴り、ぼくたちも走って次の授業教室へ向かう。
無事に間に合い席に着くと、ぼくは先ほど彼に握られた右手をじっと見つめた。
未だに残る彼の体温。そして、一瞬にして速くなった心拍数。
(恋に落ちると、本当に電流が走るんだ……)
先生の話なんて全く聞こえず、授業が終わるまでの間、ずっと廊下でぶつかった彼のことを考えていた。
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