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ひとりで過ごす部屋 sideR
「……ただいま」
声をかけても返事は返ってこない。そんなこと分かっているのに、幼い頃からの習慣は未だに抜けないでいるんだ。
赤いヒールを蹴りながら自分の靴を脱ぎ、玄関から部屋へと向かう。
廊下の壁に飾られた似顔絵。洗面所に置かれたピンクの歯ブラシ。それらから視線を外して、進んで行く。
ーーボフッ。
「……はぁ」
ソファに寝転びため息をつく。
部屋を出入りするたびに、あいつーーとうの昔に出て行った母親の荷物を処分したいとは思う。
……でも、未だに捨てられずにいるのが現実だ。
今更母親が欲しいとかは思わない。むしろ、いてもいなくても一緒だと思う。
ただ……時折何かが恋しくなるんだ。
それはきっと、俺の心がまだ幼いからなんだろう。
(早く大人になりてー)
「愛されるって、どんなだったっけ……」
俺の囁きだけが、部屋に響いた。
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