27 / 51

視線

(うっ、うわぁー! どっ、どうしよう) 教室に入り自席へと向かう途中、蓮くんと目が合ってしまった。 予想もしていなかった出来事に、嬉しさ半分……困惑半分といったところだ。 (ってか、隼人に髪をぐしゃぐしゃにされた後なんだけど! 変って思われなかったかな?) 席に着き、鞄から筆記用具を出しながらそんなことを考える。 その前に、目が合うとか見てたってバレバレってこと? 大丈夫かな? 不自然に思われていないかな? 考えれば考えるほど、ぼくの頭の中は不安でいっぱいになる。 そうなれば、周りの声なんて頭に入ってこない。もちろん、教卓に立っている教師の声さえも。 「ーーくん? 若宮くん?」 「あっ! ごめんね。ありがとう」 前の席の生徒からプリントを受け取ると、数学教師がはじめ! と声をかけた。 (えっ、テストの時間なのっ!) 気持ちを切り替えて、ぼくは目の前の紙に並ぶ数字の羅列へと視線を向けた。 「ふぅー」 ペンを置き、小さくため息をつく。周りではカリカリとペンを動かす音がする。 勉強が嫌いではないぼくは、どうやら早めに全ての問題を解き終えたみたいだ。 カンニングと勘違いされない程度に、周りの様子を伺う。 ほぼ後ろ姿に近いが、蓮くんの姿ももちろん、ぼくの席から見える。 茶色い髪の隙間からみえる、キラキラと輝く耳につけられたブルーのピアス。 首が凝るからか、時折顔を上げ首を左右に傾けると、またプリントへと視線を戻す。 そんな1つ1つのちょっとした行動さえ、格好いいと思えてしまうんだから、ぼくはやっぱり重症なんだ。 それでもーーこうして後ろ姿を見るだけで、本当に同じクラスになれたんだと実感して、素直に喜んでしまう。 もっと見ていたいけど……これ以上見つめてたら、蓮くんにバレちゃうんじゃないかな? なんて考えて、窓の外へと視線を変える。 雲ひとつない青空。 (蓮くんのピアスと同じーー澄んだ青) すぐに蓮くんを連想させてしまう自分に焦る。 カァーっと赤くなる顔を隠すべく、机に突っ伏して残りの時間を過ごした。

ともだちにシェアしよう!