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視線
(うっ、うわぁー! どっ、どうしよう)
教室に入り自席へと向かう途中、蓮くんと目が合ってしまった。
予想もしていなかった出来事に、嬉しさ半分……困惑半分といったところだ。
(ってか、隼人に髪をぐしゃぐしゃにされた後なんだけど! 変って思われなかったかな?)
席に着き、鞄から筆記用具を出しながらそんなことを考える。
その前に、目が合うとか見てたってバレバレってこと? 大丈夫かな? 不自然に思われていないかな?
考えれば考えるほど、ぼくの頭の中は不安でいっぱいになる。
そうなれば、周りの声なんて頭に入ってこない。もちろん、教卓に立っている教師の声さえも。
「ーーくん? 若宮くん?」
「あっ! ごめんね。ありがとう」
前の席の生徒からプリントを受け取ると、数学教師がはじめ! と声をかけた。
(えっ、テストの時間なのっ!)
気持ちを切り替えて、ぼくは目の前の紙に並ぶ数字の羅列へと視線を向けた。
「ふぅー」
ペンを置き、小さくため息をつく。周りではカリカリとペンを動かす音がする。
勉強が嫌いではないぼくは、どうやら早めに全ての問題を解き終えたみたいだ。
カンニングと勘違いされない程度に、周りの様子を伺う。
ほぼ後ろ姿に近いが、蓮くんの姿ももちろん、ぼくの席から見える。
茶色い髪の隙間からみえる、キラキラと輝く耳につけられたブルーのピアス。
首が凝るからか、時折顔を上げ首を左右に傾けると、またプリントへと視線を戻す。
そんな1つ1つのちょっとした行動さえ、格好いいと思えてしまうんだから、ぼくはやっぱり重症なんだ。
それでもーーこうして後ろ姿を見るだけで、本当に同じクラスになれたんだと実感して、素直に喜んでしまう。
もっと見ていたいけど……これ以上見つめてたら、蓮くんにバレちゃうんじゃないかな?
なんて考えて、窓の外へと視線を変える。
雲ひとつない青空。
(蓮くんのピアスと同じーー澄んだ青)
すぐに蓮くんを連想させてしまう自分に焦る。
カァーっと赤くなる顔を隠すべく、机に突っ伏して残りの時間を過ごした。
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