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第32話

「なぁ。席変わってもらえる? あいつら五月蝿くてさ。寝れないんだよね」 「んー? 別にいいよ」 敦くんとその後ろの席に座るイヨと隼人を指差しながら、蓮くんが山本くんに話しかける。 タイミングよく信号が赤に変わり、バスが止まった瞬間に山本くんが席を立つ。 「なずな達、話盛り上がってた? だとしたらゴメン」 「大丈夫だよ! ぼくのことは気にしないで! それよりも蓮くん……顔色悪いけど、大丈夫?」 「昨日あまり寝れなくてさ。気にしてくれて、さんきゅ」 ふああーーと欠伸をすると、蓮くんは腕を組みながら目を閉じる。 バスの揺れで、時々ふたりの肩がぶつかる。その度にぼくは、緊張して体に力が入ってしまうんだ。 (触れている所から、ぼくのドキドキが蓮くんに伝わっちゃったりしないよね……?) 「ーークシュッ」 ひとり脳内で慌しく色々なことを考えていると、隣から可愛らしいくしゃみが聞こえた。 ぼくは自分のブレザーを脱ぎ、そっと蓮くんに掛けてあげる。 (起こさないように、静かにしておこう) はじめは窓の外の景色を見ていたが、それもつまらなくなり、カバンの中から一冊の本を取り出し、しおりが挟まったページから読み始めた。 ーーぱらっ。 ーーぱらっ。 今読んでいるのは、とある推理小説。 物語も後半にさしかかり、部屋に集められた9人の男女の前で、探偵である男性が「全ての謎が解けた」と語り始める。 いよいよ犯人が分かる! とページをめくろうとした時、ぼくの右肩に重いものがのしかかってきた。 「ーーッ!!」 あまりの出来事に声が出そうになるが、急いで押し殺す。 (蓮くんの頭が、ぼくの肩に……!) ぼくの肩に寄っ掛かりながら、気持ちよさそうに眠る蓮くんの顔を見ながら、深呼吸をして自分を落ち着かせる。 普段は男らしいのに、寝ている彼の表情はどこかあどけない。 (少しだけなら……いいかな?) しおりを挟み本を閉じ、空いている方の手で彼の髪をそっと撫でてみた。

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