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第34話

蓮くんの髪を撫でていたら彼と目が合ってしまい、咄嗟にぼくは手を引っ込めた。 (どうしよう……気持ち悪いって思われたよね) 彼から視線を外し、頭の中でモヤモヤ・グルグルと色々なことを考えた。 謝ったけど、許してもらえるはずがない。怪しまれるし、絶対に気持ち悪いって思われている……。 ぼくは意を決して、このあとかけられるであろう彼からの拒絶の言葉を待つ。 ……しかしぼくの耳に届いた言葉は、想像していたものと全く違ったものだった。 「その本、面白い?」 ぼくが胸元で抱きしめている本を見ながら、蓮くんが話しかけてくれる。 本の話をされるとは思ってもいなかったので、すぐに返事ができず黙り込んでしまう、 「もしかして俺……変なこと聞いた?」 「うっ、ううんっ! この本、推理小説なんだけどすごく面白いよ」 眉間に皺を寄せて、少しむすっとした蓮くんの顔を見て、咄嗟に返事をする。 ぼくの言葉を聞いて安心したのか、元の表情に戻ると、ふーんと言いながらぼくの手元から本を奪いペラペラっとページをめくっていく。 「かなり読み込んでんじゃん。……へぇー。犯人は、殺された女の妹なんだ」 「あーーーっ!」 まさかこんな形で犯人を知ることになるなんて……。 予想外の出来事に、ぼくは分かりやすく落ち込む。 「え? どうしたんだよ」 「蓮くんの、ばかっ」 ちょっとした出来心だった。彼を困らせてみたくなり……窓の方を向いて拗ねてみた。 顔は見えないけど、ぼくの後ろで慌てている蓮くんを感じる。 「もしかして、犯人知らなかったのか? それなら……悪かった」 (今の言い方……なんか可愛い) なぁ、って言いながらぼくの肩を揺らし続ける蓮くん。 子供みたいと感じ、思わずプッっとふきだしてしまった。 「いいよ。許してあげる」 さっきまで、また新しいあなたの姿を見せてくれたからーー。 まぁ、本当は怒ってないけどね。 ぼくが体の向きを戻しながら笑いかかると、蓮くんは分かりやすくほっとする。 「そうだ、蓮くん。これ、知ってる?」 本をしまい、代わりに鞄からお菓子を取り出す。 ジャーン! と、新作味のクッキーを見せると、彼は不思議そうにそれを見つめていた。 (きっかけは何だっていいんだ。折角の機会、蓮くんと話せるならーー) ふたりでそのクッキーを分け合って食べながら、合宿所に着くまで他愛のない話をして過ごした。

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