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第36話

遡ること10分前--。 食事を終え部屋に戻ると、各自入浴の準備を始める。 ぼくも自分の鞄から、寝巻きやタオルを取り出す。 「みんな準備できた? まとまっていくから、廊下でて」 同じ班の山本くんが発した言葉により、4人揃って浴場へと向かう。 隣で山本くんと敦くん、蓮くんが何かを話しているが、ぼくの頭には何も届かない。 (どうしよう……どうしよう……) さっきの夜ご飯、少し減らしておけばよかった。 なんて、お腹をさすりながら意味の分からないことを考えていると、あっという間にお風呂場に着いてしまった。 空いてる棚を見つけ、みんな一斉に服を脱ぎ始める。 笑い声と、衣類の擦れる音がする。 先に到着していたのだろう。お風呂がある扉の向こうからは、隼人とイヨくんがお湯の掛け合いをして遊んでる声が聞こえてくる。 ーーパサッ。 隣から聞こえてくる、衣服の音。ほのかに香る、甘い香水の匂い。 その横でぼくは、手を震わせながらも一生懸命自分のボタンを1つ1つ外していく。 「お前らまだー? 俺と山本、先に行ってるから〜」 「ああ、分かった」 「えっ!」 敦くんの呼びかけに驚き顔を上げると、シャツを脱ぎ終え上半身裸な蓮くんの姿がぼくの目に映る。 滑らかな肩のラインに、程よく引き締まった綺麗な背中。 腰に巻かれた白いタオル。 一瞬息をすることを忘れ、その美しさに魅入ってしまう。 「準備、できた?」 髪を揺らしながら、蓮くんがぼくの方へ振り向く。 「もっ、もう少しだから……先に行っててもいいよ」 「いや、待ってる」 棚に寄っ掛かりながら、蓮くんはぼくを待ってくれている。 お互い何も話さず、ぼくの慌てて服を脱ぐ音だけが室内に響く。 「……」 「……」 目を合わせているわけじゃないけど分かる……。今、蓮くんがぼくを見ているって。 心拍数が上がり、男子ならではの……その……生理現象が起きそうになる。 (だめだめだめ……!) 先日隼人に無理矢理観せられた、怪奇現象100選のDVD内容を思い出し、心を落ち着かせる。 「お待たせ。蓮くん冷えてない……? ごめんね」 「いや、大丈夫。んじゃ、行くか」 無事に準備が出来、2人でみんなの待つ騒がしいお風呂場へと向かう。 先に歩く蓮くん。でも…… あと一歩前に出れば、彼の背中に触れてしまうーーそんな距離。 はじめは緊張したし、特に会話もなかったけど……先程までの2人の空間は、とても心地よかった。 ーー蓮くんがいるだけで、色んな感情が生まれてくる。 ぼくは無意識に、彼の背中へと手をのばしていた。

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