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第39話

さっきまでぼくたちがいた浴場にも、入り口近くの自販機にも、蓮くんはいない。 他の子の部屋にも行ってみたけど……やっぱり見つからなかった。 (残すところは……) 明日ぼくたちが夕食でバーベキューをする、外の広場しか思いつかない。 まだ消灯時間じゃないから怒られることはないけど、周りを気にしながら靴に履きかえ、外にでる。 「うぅ〜っ……」 春とはいえ、お風呂上がりだからか、風が吹くと寒いと感じてしまう。 胸の前で腕をクロスさせ、自分の肩をさすりながら目的地へと向かう。 月明かりを頼りに暗闇を進んでいくと、ベンチに座る蓮くんの後ろ姿を見つけた。 「あっ。蓮くーー」 声をかけながら近づこうとしたが、もう1つの影を見つけてしまい、足が動かず声も出なくなってしまう。 ぼくの目の前では、女の子が蓮くんと向かい合うように彼の膝の上に跨り、首に手を回しながらキスをしていた。 「っ!!」 蓮くんぐらいのイケメンなら、こんなのどうってことない行為だろう。 他の子だって、こういうことしてると思うし。 ただ……想像していたより傷付いているぼくがいた。 (男と女の違いを見せつけられた感じだな……) 誰かが言ったわけじゃないけど、これが世の中の普通だと言われてる気がして胸が痛い。 ーーガサッ。 この場からいち早く去りたいと、声をかけるのを諦め戻ろうとした時、ぼくの足元で音がなった。 もちろんそれは2人の耳にも届いてしまい、こちらを振り返る蓮くんと、彼の肩から顔を出し「邪魔をするな」と言わんばかりの表情でこちらを睨む女と目が合う。 「えーっと……明日の予定確認するから、蓮くんを呼びに来たんだけど…………ごめんなさいっ!」 急いで背を向けて、その場から走りだす。 走ってなのか、嘘をついてなのか、どちらが原因かは分からないけど、胸の辺りが締め付けられるように痛い。 部屋に戻り「調子が悪いから先に休む」と、敦くんと山本くんにも嘘をつき、布団を被りーー気づけば翌朝を迎えていた。

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