42 / 51
第42話
「なじゅにゃー、ひょうゆ、とっへー」
「もー、口に食べ物を入れながら話すなよー」
昨日の気まずさがあったからか、朝から蓮くんとは目を合わすことが出来ず、話もしていない。
空気を呼んでなのかは分からないが、ぼくの部屋に遊びに来た隼人は、あれからずっと隣にいて冗談などを言ってぼくを笑わせてくれる。
「あっ……」
「……」
頼まれた醤油を取ろうと伸ばしたぼくの手に、蓮くんの手が触れた。
避けてますって言わんばかりのスピードで手を引っ込めてしまい、後から後悔をする。
「……悪い。ほら、使えよ」
「……ありがとう」
俯いてるぼくに、いつもと変わらず話しかけてくれる蓮くん。
その優しい声と、気にしてるのはぼくだけなんだという現実に涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。
無意識に握りしめていた拳を解くと、手の平には爪の食い込んだ跡がくっきりと残っていた。
「なずなぁー」
「あっ、ごめん隼人。醤油だ--んぐっ!」
隼人に呼ばれたので振り向くと、口の中に何かを突っ込まれる。
「隼人くんの愛がたーくさん詰まった白米だぁ〜! ほらっ、もっと食えー」
「ストッ……ぐふっ」
笑顔でぼくの口に白米を詰め続ける隼人。そんな隼人の顔を見ていると元気が出てくるし、安心する。
(昨日のことは、もう忘れよう)
それにしても……
「はひゃふぉっ! いれふぎっ!」
苦しくなって、急いでお茶を飲む。
だから気づかなかったんだ。
この時--隼人がぼくに気づかないように、蓮くんを睨みつけていたって。
ともだちにシェアしよう!