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第2話

 オーナーが行方不明になったと知れたとき、店の男の子は皆驚いて心配げな顔をした。  もちろん僕もだ。それは「やあ」と言われたら「どうも」と返すのとおなじ、マナーの一貫だ。挨拶が終わればすぐに忘れる。どうせ皆、通りすがりなのだ。  素肌にシルクのシャツ一枚を着て待機していると、来客を知らせるベルが鳴った。受付でなにかもめているようだ。そんなことは日常茶飯事だから僕たちはカールさせた髪をいじりながらぼんやりと聞いていた。  支配人が僕を呼んだ。空いている『ダークローズ』の部屋に向かう。しばらくするとドアを開けて隆一さんが入ってきた。 「HELLO」 「はろー」  僕は挨拶を返した。挨拶が終わると隆一さんは迷わずベッドに腰掛けて、隣のスペースをポンポンと叩いた。    隆一さんは手を伸ばしてくることもなく並んで座った僕のことに気づいていないみたいに真っ直ぐ前を見ていた。  一見の客は入れてもらえないはずなのに、どうやって入店したのかな。  その答えが書いてあるかと思って僕も同じ方向を見たが、そこにあるのは見馴れた浴槽と花の香りの石鹸と、沐浴用のマットレスで、隆一さんのことは何もわからなかった。  隆一さんは小さく口笛を吹き出した。聞き覚えがあるような気がしたがずいぶん拍子が外れていて何の曲だったのかは分からなかった。  時間いっぱい、僕たちは並んで座っていた。 「じゃあね」 「じゃあね」  挨拶をして隆一さんは帰っていった。帰りは英語で言わないんだな、となんとなくおかしくなった。

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