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第3話

腕をいっぱいに広げたかのように、その花房は見事で、何度見ても圧巻という表現以外ほかならない。 降ってくる花びらの下、俺は根元に作られた小さな祠に桜餅の乗った懐紙を置く。 「…此度も誠に麗しゅうございます。染井吉野の君」 そう言いながら、三つ指をついて地面には触れないけれども頭を下げる。 毎年、こういう習わしなのだ。 この桜が咲くことによって、青雨家は代々商売繁盛してきたのだ、と。地元では有名な話だ。 家の人間全員が、こうして守り神様に感謝の意を込めて桜餅を捧げる。 …マスコミが来るなら俺は全力で毛嫌いするけれど。 簡素な儀式、とも言い難い儀式を済ませ俺は立ち上がりかけた。その時。 ざあっと、染井吉野の房が風もないのに音を立てて揺れた。 「…なんだ?」 片膝をついたまま、俺は頭上の桜を見上げた。 やけに、空気が生ぬるい。気のせいでなければ、これは…雨の降る前触れ。そして、湿った匂い。 「なにが…!?」 ただ事ではない違和感を感じた瞬間、視界は吹雪のような桜の花びらに一気に埋め尽くされた。 たまらず、目を閉じて腕で顔を覆う。 俺の意識は、そこで一旦掻き消されてしまった。

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