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第4話

髪の毛が濡れている感覚が、鈍い意識の中で分かった。 ゆっくりと、俺は目を開けた。 「え…?」 間の抜けた声が、つい口から出た。 糸のように細い霧雨が、あたりの景色の輪郭ををぼんやりとさせていた。 さっきまで、雨なんて降っていなかった。それに、立ち膝だった筈なのに両足で立っているのは何故だ。 何より、此処は―― 雨を浴びたまま、俺は目の前に広がる嘘のような景色にただただ立ち尽くしていた。 一面の、薄紫色の世界。 そしてその真ん中にすっくと立った、後ろ姿が目を引いた。 頭が状況整理をしようと必死に回転するのに、 俺の五感が美しいものに抗うなと叫んでいる。 馬鹿みたいに突っ立ったそんな俺に、最初から気づいていたみたいにその後ろ姿がこちらを見た。 濡羽色のくせのある髪が、僅かに揺れた。 「………おや」 雨の粒を受けた唇から、そんな呟きが漏れ出た。

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