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第6話
頬に触れた手は、雨が降りしきっているせいかとても温かく感じた。
雨粒さえも違和感なく纏って、雅さんは俺を愉快そうに見つめている。
磨き抜かれた色硝子のように、鮮やかな浅葱色の瞳。
嘘みたいだけれど、声が出なかった。
あまりに、綺麗で。あまりに、浮世離れしていて。
胸の鼓動が、やたらと早い。
どくどくと脈打つ心臓が、これ以上この距離で触れ合うのは危険だと告げる。
「は、離れてくれませんか…」
顔を背けて懇願すると、雅さんは首を傾げた。
「何故じゃ?」
「ど、どうしたらいいのか…分からなくなるので。困ります…」
突然こんなことを言われて、よっぽど不思議に思われているだろう。でも、限界だ。
苦しいくらいに、美しい。
俺の頼みに、雅さんはうーむと声を上げた。
それから、打って変わってその手が俺の手首を引っ張った。
「分かった。お主、腹が減っておるのじゃな」
「は、はい…??」
ようやく顔から離れた手の温かさにほっとしたのも束の間、やや強引に先を行かれる。
戸惑う俺に、雅さんは子供のように屈託のない笑顔を向けた。
「確かに、人間の住む世界よりはちぃと天気が違うからのう。お主みたいに細い仔には寒いかもしれん。
ついて参れ。とびっきりの胃袋が喜ぶ食べ物を馳走してやるでの」
「そ、そんなお気遣いなく…!あ、あの…!」
ぐいぐいと引っ張るその手を、全力で振り払うことも出来ただろうに。
口だけでしか、俺は抵抗出来なかった。
何故だろうか。雅さんの瞳の色も声も、手の温度も。
体が、懐かしさでいっぱいになって震えだしそうだったんだ。
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