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第7話

咲き乱れる藤棚をくぐり抜けて、俺が雅さんに案内されたのは立派な構えの日本家屋だった。 広い玄関を上がって、埃一つ見当たらない廊下を摺り足で進む雅さんに倣って、俺もそうするも、ついその背中に見とれてしまう。 うなじの辺りから香ってくる梅の匂いにどきっとさせられて辛い。 何故家に赤い鳥居があるのか、何故壁や柱の至る所にお札が貼られているのか。 気になりはしたものの、目まぐるしさに目を動かすだけで精一杯だった。 天井からぶら下がった赤い提灯。 床に描かれた見たこともない奇妙な印。 どこかから聞こえてくる、得体の知れない動物の鳴き声。 やっぱり、俺の知っている世界じゃない。 長い廊下を歩き続けて、雅さんがようやくぴんと張られた障子の戸の前で立ち止まる。 それから俺を中に招き入れると、 「此処で待っておれ。すぐに用意してくるでの」 と言って、本当に俺を置き去りにしてみせた。 なす術なく、俺は敷かれた座布団の上に正座になる。 「それにしても…」 やっぱりここも、不思議な部屋だ。

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