7 / 39
第7話
咲き乱れる藤棚をくぐり抜けて、俺が雅さんに案内されたのは立派な構えの日本家屋だった。
広い玄関を上がって、埃一つ見当たらない廊下を摺り足で進む雅さんに倣って、俺もそうするも、ついその背中に見とれてしまう。
うなじの辺りから香ってくる梅の匂いにどきっとさせられて辛い。
何故家に赤い鳥居があるのか、何故壁や柱の至る所にお札が貼られているのか。
気になりはしたものの、目まぐるしさに目を動かすだけで精一杯だった。
天井からぶら下がった赤い提灯。
床に描かれた見たこともない奇妙な印。
どこかから聞こえてくる、得体の知れない動物の鳴き声。
やっぱり、俺の知っている世界じゃない。
長い廊下を歩き続けて、雅さんがようやくぴんと張られた障子の戸の前で立ち止まる。
それから俺を中に招き入れると、
「此処で待っておれ。すぐに用意してくるでの」
と言って、本当に俺を置き去りにしてみせた。
なす術なく、俺は敷かれた座布団の上に正座になる。
「それにしても…」
やっぱりここも、不思議な部屋だ。
ともだちにシェアしよう!