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第8話
座ったまま、ぐるりと部屋を見渡す。
不規則に、大きさもばらばらな丸窓が幾つも壁に備え付けられている。
それに、ひとつひとつの窓の向こうの景色が違う。
ただ、少しだけ既視感があってほっとしたのは、そのどれもが花の咲いた景色だったからだ。
山百合の薄桃色に、山茶花の赤。水仙の黄色に、矢車菊の青紫。
他にも、見たこともない花が窓の外側に咲き誇っている。
そんな色彩豊かな花の上。
蝶がひらひらと心地良さそうに羽を閉じたり開いたりしている。
「…どういう仕組みなんだろう」
丸窓の他には、鴨居から薄絹が垂れ下がっていて風もないのに揺れていたり。
時々、部屋の中で線香花火の先の部分だけがパッと閃いてすぐ消えてしまったり。
奇妙なはずなのに、この部屋にいると色々と受け入れてしまう自分がいる。
けれど、ここにもお札が何枚か貼られている。
床の間の掛け軸も、天女と蓮の絵と、恐らく梵字で何か書かれているのにお札に邪魔されて全容は分からない。
鴨居や天袋、欄間にまでもちらほらと貼られているのに気付いた。
達筆な文字で、辛うじて幾つか読めるものがある。
息災、大安、立春…規則性はないように見える。
1人でお札について考え始めた頃、すたすたとこちらに迫ってくる足音が聞こえてきた。
「すまぬ。待たせたのう」
「いえ…そんなに退屈はしませんでしたし…」
雅さんが、お膳を持って部屋に戻ってきたので
改めて背筋を正した。
何だか、俺よりも嬉しそうな顔をしている。
「丁度、貰ったばかりで新鮮で良かったわい」
ふわ、っと鼻先をいい匂いがくすぐった。
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