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第9話

机に下ろしてくれると、わざわざ蓋まで開けてくれた。 条件反射で、胃袋がきゅっとなる。 木製のおひつの中には、まだほかほかと湯気の立つ白米が敷き詰められていて、目にも美しい鯛の刺身が贅沢に彩っている。 よく見ると、いくらに刻み大葉まで乗っている。 味噌汁は絹ごし豆腐とお麩のようだ。 ……急にお腹がすいてきた。 「桜鯛を貰ったからのう〜。折角じゃからおひつ御前にしてみたわい。茶漬けにしても美味いぞえ」 目を奪われた俺を見て、雅さんは心底嬉しそうな笑顔でわざわざ茶碗によそってくれる。 「い、戴きます…」 猛烈な食欲をけして悟られないように、慎重に箸を手に取る。 きらきらと輝いて見える程、美味しそうなご飯を俺はひと口運んでみる。 「……!!!」 想像をはるかに上回る味だった。 温かい白米と甘くて身の引き締まった桜鯛が舌の上で躍る。 未体験の美味しさに、俺は思わず箸をぎゅっと握った。 「これ、美味しすぎです…」 「あっはっは。可愛いやつよのう。でも儂も桜鯛は大の好物じゃ!」

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