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第10話
屈託なく笑った雅さんの顔が、またも俺の心臓の鼓動を支配する。どきどきして適わないので、俺はおひつをかっこむ。
雅さんが作ってくれたのかと改めて思うと、顔を背けても逃れようがなくて、正直戸惑ってしまう。
「ふふふ。子供はたくさん食べるに限るでの。お主、そう言えば名前は?」
お茶をずっと啜って、雅さんは俺の口元から何かを取って見せた。
どうやら、米粒がついていたらしくて、たちまち恥ずかしくなる。
「あっ…と、俺は……!!」
「うん?」
ぎょっとして目を見開いてしまった。
自然な流れで、ぱくっと米粒を食べてみせた雅さんに、箸を動かす手が止まる。
突っ込んだ方がいいんだろうか…いや、でもここは。
「…青雨 音羽 です。青い雨、に音色の音と、羽で」
子供の頃から、何度も大人達に説明してきた名前だ。一度聞いただけでは男だと分からないこの名前が、俺は昔からあまり好きでない。
曰く、曾祖父の遺言で俺が生まれたらこの名前をつけるよう遺されていたらしいから、由来も不明だ。
名前を聞いた後、雅さんは一度ゆっくりと瞳を閉じた。
それから、その手が俺の頭を軽く撫でた。
「ぴったりの名前じゃの、音羽」
「あ、いえ…あ、ありがとうございます」
「名は体を表す、と言うからの。
お主をさっき見つけた時な、人間にしては限りなく純粋だと思ったのよ。
穢れが極めて少ない、と呪術師風には言うがな」
「呪術師…?」
急に禍々しい雰囲気の単語が出てきた。
それが顔に出ていたのだろう、雅さんはふっふと笑うと、妖艶な目になって教えてくれた。
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