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第14話
折角、欲しかったものが手に入ったのに。
素直に受け取ることが出来ないのは、俺の心が歪んでいるからだろうか。
変わることは、一番手っ取り早く苦痛から逃れる術だと信じていた。そうに違いないと。
けれど、いざそうなってみたら。
苦しさが別の種類の苦しさへと、すり変わっただけだった。
喋るのが、辛い。うっかりしたら目から何かが溢れてしまいそうだ。
俯いた俺は、それ以上雅さんの顔を見ることが出来ない。何を言われるかが怖かった。どんな感情を表に出されるのか見たくなかった。
「…音羽」
名前を呼ばれて、体がこわばる。
雅さんのような大人には、子供の下らない戯れ言だと、思われたかもしれない。
ぎゅっと目を瞑ったその時、優しい体温が俺を包み込んだ。
「…み、雅さん…?」
思わず驚いて、目を見開いた。
雅さんの腕の中に、俺の体はすっぽりと収まっていたのだ。
ぎゅっと抱き締めるその仕草は、哀れみと慈しみのあるものだった。
「…こんなにまだ若くて、小さいのに。しんどい思いばっかりしてきて…可哀想に。
音羽、お主は心も体もとても綺麗な仔じゃよ。よく、今まで頑張って生きていてくれたのう」
耳元に降ってきた、今までに生きてきて味わったことのない、砂糖菓子のような甘い言葉。
それを噛み締めて、雅さんの胸の鼓動を聞いて。
俺の中に山ほどつかえていたものたちが、ほろほろと崩れていく。
涙が、勝手に零れ落ちた。
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