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第10話 シュークリーム[1]
商店街の裏手にある鄙びた雑居ビル。教えられたように、ホールを突き抜けて外階段を上がる。
看板は出ているものの、こんなところへ自力で辿り着く人がいるのか甚だ疑問だ。
『Venusの那須の紹介と言うのを忘れないでね』と、行きつけの店のママ、那須さんに念押しされた。
紹介でなければ、おっかなくてこんなところに入っていけない。
呼び鈴を鳴らし、那須ママの名前を伝えると、ロックが開いた。室内を見渡すが、他に人の気配は無い。
「いつもなら助手もいるのですが。今日訪れるのは貴方だけですから。」
奥の部屋から、背を向けたままのマスクの男が静かに告げる。
コートと手荷物をロッカーに納めた
古い造りの金属ドアが、重厚な音を立てて閉まる。
覚悟を決めて室内へ進んだ。
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