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第10話 シュークリーム[3]
命令は終始丁寧な言葉遣いで、決して威圧的では無い。…なのに拒否出来ない。
指示された姿勢のまま硬直する。下手に動いて怪我をしたくは無いから。
「まな板の鯉」とは、まさに今の俺だ。
素顔さえ知らない人間に、暴かれたく無い粘膜の奥、身体の内側まで覗き込まれる。
抵抗?もう諦めた。この建物に入った時点で、腹は決まっている。
この細身の男はこの建物の住人。その点では"身元の確かな人"だ。大振りなマスクを装着していて瞳だけしか窺い知れないが、素顔はきっと相当な二枚目だろう。
那須ママも見たがっているこの男の素顔。北風と太陽の童話みたいに、平和的に拝顔出来ないものだろうか…。
考えに夢中になり過ぎて、自分の真横に手入れされた道具達が並べられるのに気付かなかった。
目的に応じて角度の異なる、鋭く光る細い道具が数種類。マスクの男が僕の椅子の足元レバーを踏むと、周りの装置に電源が通う微かな振動音が聞こえた。
マスクの奥が嗤った気がした。
「緊張していますか? 大丈夫、今日は痛い事はしません。とにかく綺麗に洗って、済んだらハメるだけです。」
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