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第12話 甘い潤い
昼休み終了間近な12時40分。
特に目的もなくコンビニに入り、目新しい物はないかなー…と一周する。
[成人用雑誌]と、あからさまに囲われているトイレ前で、堂々と立ち読みしている服部を見つけて我が目を疑った…。自分の会社の前で何やってるんだか。
静かに隣に立ち、囁く。
「なにしてんですか服部さん。袋綴じ、引っ張っちゃダメでしょうが」
驚いて赤面するか、多少は慌てるか、との予想はうらぎられた。
「シッ! 静かに!!向かいのドラッグストアに仙道さん。」
服部の目線はその手の雑誌を素通りし、真向かいへ。
…ああ。ホントだ。あの人は目立つからすぐわかる。
「土井、ヤツの手元をよく見ろ。」
ーーー!!
「アレって…ローショ…」
「な?わざわざ会社の近くでアレ買わなくても…恥ずかしくないのか?あの人は。」
「レジに行ったな、ああ、やっぱり多少は恥ずかしいんだな、黒いビニールに入れてもらってる。」
「かえって目立つだろうに。仙道さんって、そういうキャラだっけ?」
…居合わせたとしても、気まずくて絶対話しかけられない。
少し時間をずらしてオフィスに戻る事にした。
もう仙道さんは席に戻っているだろう。あの光景は仙道さんファンが見たら泣くぞ。見なかった事にして、いつも通りにしなくては。
いつも通りを意識しすぎて、手足がギクシャク不自然になる。パーティションの向こうから、船山と仙道さんの会話が聞こえた。
「仙道さん。買い物助かりました。すぐ分かりましたか?」
「お役に立てたのなら良かった。実は、見つけられなくて、店員さんに聞きました。白いパッケージのは売り切れで、ピンクの箱のやつを買ったんですけど…中身は同じだと言われたから、安心して下さい。」
仙道さんの買い物じゃないのか…。
しかし船山の奴、めっちゃモゴモゴ喋るから、よく聞き取れない。
「あ!仙道さん!そんなもの舐めないでください…っ」
「ふふふ、甘いです。」
「嘘っ!あああやめてくださいよ仙道さん〜」
「そんなに焦らなくても大丈夫です。だって、ホントに…甘い。ああ。ほら、また垂れてきています。拭いてふいて!」
ああ、とうとう止水栓が決壊したか。
サラサラのが出る様になったらもうどうにもならないよなぁ。
「…土井ちゃんが立ち聞き?なになに?」
先程と逆転。服部が俺の隣に現れた。
「船山と仙道さん。とうとう止まらなくなったみたいで。」
半笑いで報告する。
。。。。。。。
「毎年の事なんだから、手を打てば良いのにな。べにふうきとか甜茶とか。」
「俺は今年はヨーグルトで何とかした。今日は薬も飲んでるけどね。」
「社会人なんだから考えろって言ってやりたいよ。職場で鼻赤くしてるのは甘えだね。」
「船山は内勤だからって、気が緩み過ぎだよな。」
花粉症の季節が本格化。社内もマスク愛用者がゴロゴロいる。
でもさ、内勤だからって、野郎のデスクにア〇パンマンは無いだろう?
ローションティッシュは保湿成分にグリセリンやソルビトールを使っているものが多く、舐めると甘い。
(そして仙道さんは、船山に甘い。)
アンパ〇マン鼻セレブ
そのまま持ち歩いたら見てるこっちが恥ずかしいから、せめて袋に入れてくれ!
<ローションティッシュ編おしまい>
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