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第14話 感染 《パンデミック》
知らないままでいた方が良かったのか。もう会えないのか。募る思いをどこへ伝えればいいのか判らず、途方に暮れている。
月曜日に突然始まったこの熱病は、パンデミックを起こし社内に蔓延した。流行り病のように、熱に浮かされて、次々と感染者を増やしていく。
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社員食堂に3日限りのテストメニュー「やみつきカレーうどん(仮)」が登場。
『やみつき』と名乗るからには、本当に病むほど嵌らなくちゃいかんだろう?と社長が拗らせた駄目出しをしたため、担当者の土井が意地になって改良したという訳アリのカレーうどんだ。
土井の生み出す物が、不味い筈が無い。本職はメニュー開発担当では無いのに、その味覚とセンスを買われてたびたび新メニューのレシピを作成している。社員食堂でテストするのは初めてではないので、多くの社員に土井の名前は知れ渡っている。
初日の月曜、最初の1人がカレーうどんを食べ始めた時、すでに感染は始まっていた。それが5人に拡散、そしてまた5人に拡散… あっという間に、もう止められないパンデミックに。
カレーうどんは実に奥深い。
主なトレンドは2種類。昔ながらの『鰹出汁を効かせ、片栗粉でとろみを付けた蕎麦屋風』と、『クリーミーな特製スープにシンプルな具剤をあしらう某専門店風』。
どちらも魅力的だ。自分の好きな店を再現することはできるが、今回は独自性も出したい。
社長の条件は「とにかく3日間の販売数を重視」。ということは、毎日食べても飽きない、それどころか、連日食べたくなる!食べずにいられなくなるカレーうどんを目指す。
そこで、目を付けたのが『鶏がらスープにかつおと昆布』。懐かしの中華そば、関東風の雑煮にも通じる、身体の芯に沁み込むベースだ。
スパイスを独自に調合したカレーベース。市販のカレー粉もノスタルジックで捨てがたいが、ここは本気を見せたいところ。
和風だが、片栗粉でトロミは付けず、鶏から出た蛋白質で自然に纏わせる。札幌スープカレーを思わせる食欲をそそる薫りが癖になり、毎日でも食べたくなる。
麺は、徳島県の手延べ乾麺「半田そうめん」を使う。うどんと素麺の中間の細麺で、知る人ぞ知る癖になる食感。手延べ乾麺特有ののど越しと、扱いやすさが、社員食堂での提供にも向いている。
クリーミーな味わいに慣れている若者も多いだろう。そこはしっかり考えてある。
毎日欲しくなる飽きのこないスッキリ系スープに、トッピングのフレッシュモッツアレラチーズでダメ押し。1センチの厚さにスライスして、熱々のスープに乗せる。じんわりと温められて餅のように伸びるチーズ。沈めれば途端に生乳の風味が拡がって、乳白色のクリーミーなスープに変わる。混ぜても、そのままでも美味しく食べられる仕掛けだ。
社員食堂はセルフサービスだから、運んで席に着くまでの間にチーズが熱くなる計算。
最終日の今日、水曜日。奥の手の出番だ。
月曜・火曜は鶏ガラベースでした。
水曜日は、烏骨鶏のガラを使います!!!
「烏骨鶏…!!!食べた事ないです。やっぱり鶏とは違います?」
「…くそっ!煽りやがって。結局3日連続でカレーうどん食うじゃないか!」
「スープが売切れたら終了だそうです。…服部先輩、紙エプロン付けたとしても、白のマオカラージャケットは危険ですねえ?」
「船山は…ジャケットは濃紺か。イイな。」
まもなく正午。
月曜日より、火曜日より、今日は白い服を着る人が少ない。…これは、皆がカレーうどんに夢中な証拠か。
本気出してかからないと、本当に丼に有り付けない。
今日の幻のスープが尽きる前に滑り込まなくてはきっと後悔する。昼休みになる前に、身支度は整えて備えておかなければ…!
…そして冒頭に戻る。
これだけの感染力そして習慣性。社長は「やみつき」の称号を許してくれるだろうか?
<カレーうどん編おしまい>
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