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第16話 まっくろ【仙道さんのブラック-1-】

(side服部)  「服部、ちょっと寄っていけ。」  総務課の前を通ったら、栗原さんに手招きされた。良い所に来たなあ、と、栗原さんは柔らかそうな豆大福をちらつかせて俺をミーティングテーブルに座らせる。俺も黙って従う。ご年配には優しくしないとね。  「中途入社の仙道、知ってるだろ?」  「はい。船山のとこの。」  「…どう?」  はい??何?その質問…  「噂がいろいろ飛び交っていてな、情報が欲しいんだよ。わが社の人事は社長の一存だろう?社長の学閥と、ルックス重視で採用している気がしてならないんだよ。」  「はあ、確かにありそうですね、それは…」  仙道さんは後者だな。  「なんであんなに仕事ができる、マナー面も問題無い人が、あんな大手を辞めて、こんなちっぽけな会社に来たのか…って、憶測を呼んで、諸説飛び交ってるんだ。実は企業スパイだ!なんて話も。海外も含めれば、無い話じゃあ無いからなあ。」  スパイ!ああ、ああいう人たらしなハンサムなら、あり得ないことではない(ドラマの見過ぎだけど)。  「せめて前職の離職理由くらいつかんでくれ。なにか分かったら知らせてくれ、な?」  栗原さんは営業で見覚えのあるQUOカード5000円分を俺の手に握らせ、ニッコリと笑った。  まんまと買収された俺。…これって、軍資金?  噂の真相を確かめるべく、仙道さんを飲みに誘った。 。。。。。。。。  「無礼講…って、真に受けていいよね?仕事の話じゃないんでしょ?」  仙道さんから敬語が消えた。それだけでこんなにドキドキする。  同い年だし、敬語で話す必要はない。他社のスパイ?社長の愛人?異母兄弟?ドロドロの不倫で首になった?会社の乗っ取り?新手のハッカー?…腹を割ってくれないと尻尾も掴めない。  考えてみれば、船山抜きで仙道さんと飲み屋にいるのは初めてだ。栗原さんの軍資金を基に、プリペイドカードが使える駅前の居酒屋チェーン(一応個室)で中ジョッキで乾杯した。  「あ、これ。好きでしょ?お土産。」仙道さんが差し出したのは、ビニール袋の口をひねって緑のテープで止めただけのホクホクの塩えんどう。…この袋、俺の実家の近所の小っこい甘納豆屋だ。地元の人しか知らないはず。おじちゃん一人で作ってる店。偶然?何故このチョイス??  「富士見橋の小鳩屋だよ、赤えんどうの方が良かった?甘納豆より塩豆だろうと思って。」  先程から頭の中をグルグル巡っていた疑問が、とうとう口をついて出た。  「…仙道さん、貴方は一体何者なんだ…!?」

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