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第16話 まっくろ【仙道さんのブラック-2-】
…仙道さん、貴方は一体何者なんだ…!?
なんで俺の地元を知ってる?
動揺するこちらの様子を満足気に眺め、余裕の笑みで川エビの唐揚げを摘む仙道。
「何者ってなに。自己紹介から始めるの?もしかしてお見合いなの?釣り書き要る?」
目の前の仙道は、ケラケラと笑いながら若鶏の唐揚げに軽くレモンを絞り、コブサラダをしっかり混ぜて、銘々皿にサーブしている。
飛び交っているという噂話の、愛人説と腹違いの兄弟説は正直興味ない。新手のハッカーか産業スパイ疑惑、これは放置できない。スパイの可能性も踏まえて策を練らなくては。
そもそも凄いSEなんでしょ?なんでうちなんだろ。ま、ビール飲みながら聞き出しましょ。
先回りしてお代わりを頼み、聴き出しやすい所から話を切り出す。
「仙道…のさ、前の会社の事って、聞いたら不味い?嫌なら嫌でいいんだけど。」
「大丈夫だよ、円満退社だし。やり残したことも、未練も無いし。なに?あそこと取引始めるの?」
「そうじゃないんだけど、なんで辞めちゃったのかなって思うわけ。うちの会社の方が良い!とは到底思えないから…」
「そう思うよね〜。辞めるなんて勿体無いって散々言われた。」
だろうね。
「SEで入ったんだけど、広報に異動になったら今まで知らなかった黒い部分も見えた。そしたら、一気に萎えたんだよねー。
TVCMのイメージではクリーンなのに、利益の大部分が軍事特許絡みなんだよ、あそこ。もちろん平和な使い道もあるんだよ?エアコンのセンサーとか、冷蔵庫の温度管理とか。
でもね、年中NAS○の視察が来たり、弾道ミサ○ルに使うかも知れないセンサーの出荷予定が詰まってたり、実際見ていたら自分の給料が汚く見えちゃって。
知ってる?工場に綿棒が沢山届く時は、ミ○イルの出荷だよ。センサー磨くの。国産綿棒の品質サイコー!」
…ぅ、うわあ、規模が違う黒さだ!!
「綺麗ごとかも知れないけれど、出来ることなら軍需関連モノには関わらずに暮したい…」と眉を八の字に上げた。
「服部は、運命の出逢いって、信じる?」
え、運命?
「そんな煮詰まってる頃、旅先で、いい顔して働いている同世代の人達と知り合ってね、不甲斐ない自分に耐えられなくなったのが離職の決め手かな。
帰りの飛行機の機内誌に、こっちの社長の記事が載っててね。社長の事もこの会社の事も、その時初めて知ったんだ。引っ越ししたばかりの新社屋の記事。社長のこだわりポイントとか、お気に入りの物とか。
その写真を見ていたら、どうしてもココで働きたくなってね、求人募集なんか無かったんだけど、無理やりアポ取って、社長に直接会いに来たんだ。
みんなには些細かも知れない、でも俺には貴重な物がココにあるんだよ。」
…出逢い、か。
仙道は、出逢っちゃったのか。
ちょっとだけ遠い目をしてほほ笑むハンサムガイを前に、俺の頬が赤くなったのはアルコールの所為ってことにしたくて、残りのビールを飲み干した。
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