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第16話 まっくろ【仙道さんのブラック-3-】

(side仙道)  なあんだ、バレたわけじゃなかったのか。焦って損したな。  …じゃあ、今夜は何のお呼び出しだろう?船山さんは抜き、行きつけのVenusでも無い、でもわざわざ個室を予約… ただの親睦会では無い。  まあ、丁度良かった。服部に聞きたい事があるんだ。先日の「納期前日システム全消去事件(?)」の話、振りますか。 「あれ、よく一晩で建て直したね!どんなマジック?」 「え?そんな大した事無いでしょ、レジ最大2台、ストコンも発注と集計だけだし。調理場と繋ぐことも無いし。そもそも、先月、服部が軌道に乗せた老舗ホテルのパン屋チェーン展開の転用だし。」 「え!?転用?」 「ええ。転用。規模も商品構成もソックリだから。」  自社作成のシステムだから、ライセンスの問題も無いし。 「なんだよー!すっげえミラクルな技が出たのかと思ったのにぃ」 「コンパクトに、上手くできてたから。アレ作ったのは服部?うちの上司?」 「おたくの上司の基本システムに、俺が商品マスタ載っけ…た。多分…。」  ふうん、言葉尻が澱むねえ?なにか引っかかる事があるんだろ?俺、この件に関しては結構怒ってるんだよね。 「…服部。今から独り言を言うから、聞き流して良いよ?  『誰かさんがわざと仕掛けたみたいなんだよね。レシート印字に"茹でた孫"って出るように。誤字より深いし、ウイルスにしちゃあお粗末なんだよ。』以上。」  チラリと隣を見遣る。…視線を合わせないからビンゴだな?  おっかしいと思ったんだよ、凡ミスに見える誤変換なのに修正が効かないなんて。  誰かが意図的に埋め込んだのなら、丸ごと建て直した方が早い。あの日の判断は間違ってなかった!  どうせ、昼便のゆで卵なんてほぼ需要なしだもんな。稀に印字されたレシートを見て自分でほくそ笑むか、SNSにでもアップしてネタにしたいか、そんなとこだろう。  …これで今日は財布開かなくて済むな。判り易く白々しい声色で敢えて言う。 「うっわーぁ、ご馳走になるビールは最高に美味いなー♪」  すっかり戦意喪失した服部を眺めつつ、締めの一品を選ぶためにメニューを捲った。

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