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第16話 まっくろ【仙道さんのブラック-4-】
(side服部)
宴席は終始、仙道のペースで進行している。
「服部、ご飯モノも食べる?明日も仕事だから、早目に帰りたいでしょ?焼きおにぎり茶漬けと汁なし坦々麺、どっちが良い?」
はい、焼きおにぎり茶漬けでお願いしますぅ。
平日の、ビールのある普通に晩御飯の場になりつつある。呑ませて聞き出す会に引き戻すにはどうしたらいい?
栗原さんは大袈裟なんだ。社長の愛人だの、企業スパイだの疑われ続けるのは居辛いだろう。普段の、のほほんとした“仙道さん”を見ているから、スパイとかそんなきな臭いものとは結びつかないんだけど。…優しいよ?今だって俺相手に飯のペース配分とか良く気が付くし。洞察力…ある。…有るのはいろいろ探るため??さっきの塩豆だって、俺が実家に帰ると必ず買ってる奴だし。なんで知ってる?あれれ?やっぱりどこかの国のスパイ…
いかん、ビール2杯しか飲んでないのに変なところにはいったか、あたまぐるぐるしてきた。
焼きおにぎり茶漬けのだし汁が、明石焼きっぽい濃さで旨いなー、あったかいなー、とか考えながら、テーブルの木目がアップで見える…。
「服部ー!ハットリくーん!!寝ないでよ、ここで! 運ぶの嫌だよ?」
うん、わかったよ。ねてないよ、せんどう…くん
。。。。。。。。。。
(side仙道)
なんでこんなに大きく育ったかねえ。
すっかり酒に飲まれてグデグデになった服部をタクシーに押し込み、自分も乗り込んだ。
…まだ思い出していないみたいだけど、僕は、服部と同じ中学校の出身なんだ。
まあ、僕のことは知らないのと同然だろう。服部君は目立つ奴だったから、僕は覚えてた。一年生から生徒会執行部の一員で、文武両道。校内にファンクラブが出来る程の有名人だった。
小学校は別だし、同じクラスになった事も無いから、当時は呼び捨てになんか出来なかった。
図書委員の当番で受付に居ると、服部君が来る。毎日3冊借り、3冊返すのだ。すごいハイペースなので、格好つけて借りてる振りなんじゃないかと思ったけど、連れの友達に要点を説明しながら勧めているので、疑うのは辞めた。卒業までに、蔵書を全て借りると豪語していたね。
僕は、中学二年の夏に一家で長野に引っ越してしまったから、それを見届ける事は出来なかった。
ある日の最終下校時間、図書室の長机に突っ伏す服部君が居た。貸出禁止の図鑑を見ながら校内の掲示物を書いていて、眠ってしまったようだった。
…ああ、あの時も、全っっ然起きてくれなくて、手を焼いたんだ。変わってないなあ、服部君。
当時の僕はクラスで二番目に背が低くて、部活の都合で丸刈りだったから、17年後に再会しても気付かなくて当然だ。今はすっかり背も伸びたからね、グデグデの君をタクシーに乗せることができる(笑)。
時間はまだ20時台。こんな時間に、正体を無くすまで酔ったサラリーマンは珍しい。
居酒屋を出る前、服部と同じ独身寮の船山さんに連絡して、迎えを頼んだ。入り口はオートロックで、エントランスまで出て来てくれた。
管理人さんが合鍵を用意して、エレベーターのボタンを押してくれる。長身の服部を、大人三人でようやく部屋まで運び込んだ。
「え?中ジョッキ2杯で?それでこんなに酔っ払っちゃったんですか!?」
そうなんですよ、船山さん。よっぽどメンタル面で痛いところを突いちゃったんでしょう。
その酒量なら放置しても問題ないだろう、と、部屋を出て管理人さんに施錠してもらった。
「あー!船山、探したよ!!」
土井さんは今帰宅ですか?お疲れ様です。
「船山の可愛い子ちゃんが、エレベーターホールで迷子になってたから、俺んちに居るよ?よく働くね、あの子♪」
『あの子』?この独身寮、連れ込み可なんですか??
「俺が止めなかったら、そのままエレベーターに乗り込んでるところだよ。しっかりしてよ~!」
土井さんが自室から持ってきたのは、白い円盤状の物体で…見覚えのある形状…
…アレは、僕のいた会社のロボット掃除機じゃないですか?
軍需関連特許転用の典型例…っ!!
一年前の胃の痛みを思い出します!!こんな身近にあるなんて。船山さんに裏切られた気分です…。
どうやら土井さんと船山さんは、この軍需関連特許のカタマリを、とても可愛がっているらしい。
「こら!勝手に出ちゃあ駄目だよ?」
「いいんだもんね!ありがとね、また来てね!」
「知らない部屋まで掃除させられておなか空いたね!おうちに帰って充電しようね!」
「もう勝手に玄関を降りるんじゃないよ?」
大人なのに!社会人なのに!なんで掃除機相手に猫なで声?
……楽しそうです。
一番見たくなかった製品なのに、妙に愛らしく見えてきました。
憎らしい冷たい機械だと思っていたけど、案外かわいい奴なの…かも…しれない。
まだ誰にも話していないけれど、この寮の空き物件に引っ越したいと思って、総務に相談している。ところが、総務の栗原さんの許可がなかなか下りないらしい。まだ在籍して間もないからだろうか。
無事に入寮の運びとなった暁には、船山さんの可愛い子ちゃん(?)をお借りして、掃除の様子を見させてもらおうかな。
それにしても、今日は一体なんの飲み会だったんだろう…?
<仙道さんのブラックボックス編 おしまい>
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