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第16話 まっくろ 【社長さんのブラック-1-】
(side仙道)
「そろそろ、オープンにしてもいいんじゃないかと思っているんだ」
急な呼び出しに、訝しげな表情の僕を構うことなく、社長は上機嫌だ。お茶を運んできた秘書を退室させると、僕を社長室しか出入りできないテラスに誘導し、重い硝子戸を閉めた。
照り付ける日差しは夏の熱量を保ち、空調に慣らされた身体に心地好い。社長はアウトドアブランドのロゴが入った折りたたみ椅子に、いつものように腰掛けた。
「私は困ることはありませんが、社長が……」
「秘密にする理由もないだろう? いつだって、正直に答えるつもりで待っているんだ、でも誰も聞いてこない。もうそろそろバラそうよ。黙っているの、飽きちゃったよ!」
子供ですか、いい年をしてそんな言い方。
社長の一方的な提案を無視して、熱気を孕んだ繁みに目を遣る。そっと掻き分け、奥に隠れた膨らみにそっと手を伸ばしてカタチを探った。
「もうこんなになってる……」
鈍く光る独特のフォルムが赤みを増す。揺らした繁みから立ち上る匂いが、夏の始まりを感じさせた。
「社長。貴方は限度ってもんを知らないんですか? もっと小まめに呼んでくれたらこんなになるまで放っておかないのに」
ここに呼ばれる時は、することは決まっている。足元に屈み込み、その先を小鳥の頭を撫でるかの様な力加減で触れ、慎重に根本までを辿る。様子をうかがいながら面倒をみるのは僕の役目。無言のまま行うのは居た堪れず、言う立場では無いのは承知で小言を口先に並べる。
「意地悪を言うなよ、これでもなかなか多忙な身なんだから」
気分を害した様子もなく、微笑で返されることに安堵した。大人の対応だ。その位の余裕ある人で無いと、安心して入り込めない。
「大体、こんなに元気に育っちゃったのは、仙道にも責任があるんだろうが。お前のプレゼンはツボを得ていて、効果テキメンだから」
「お褒めに預かり光栄でございます」
謙遜など一切しないで褒め言葉を享受する。共犯だというのなら、それはそれでいい。
あの夏からもうすぐ一年。
「あの時の仙道は、必死で可愛かった。普段スカしている分、尚おかしい」
……確かに必死だった。だって、この機を逃したら、もう此処に来られないのだから。
「あの提案が無かったら、今頃こんなワクワクしていなかったよ。これも、言ってみれば“運命”なんだろう?」
ええ。きっと運命なんですよ。
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