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第18話 信じられない -2-
資料は10部。部下に頼むような環境ではないから、自分でやりますよ。
複合機からまとめて順に出力されるので、数分かかる。自分のデスクのパソコンから印刷予約を済ませ、このコーヒーを飲み終わってから取りに向かえばちょうどいい。パソコンのモニターの右隅の時計は10時20分。……余裕だな。服部さんは、随分先回りして電話をかけてきたんだな。
書類の左上を、針なしホチキスで止める。10部揃えてクリアファイルに収め、社名の印刷された封筒に入れて準備は完了。念の為、自社の会社案内のカラー刷りも入れた。
ロッカールームに上着を取りに行く。壁の時計は11時20分を指していた。……あれ?呑気にしすぎたか。手洗いだけは済ませて、急ぎ足でセキュリティをくぐった。
「船山、外出? あ! 服部さんの案件、今から? うん、いい時間だね」
土井さんは今日は内勤かな。
「打合せのレストラン、駅からちょっと離れてるからね。電車3駅と歩きで合計25分ってところかな。昼間の電車の待ち時間を考えたら、ここから歩いたほうが早いかも知れないよ?」
順調で25分!! 間に合うだろうか?
ありがとうございます! 直接向かいます。
ロッカールームを出てから、手洗いと立ち話で10分ほど使っただろうか。公園の中を突っ切って歩けば20分ちょっとで行けるはず。梅雨の晴れ間の陽射しはすっかり夏で、ジリジリと熱い。ジャケットを着てしまった方が、赤外線を遮断してくれるんじゃないだろうか。
書類の封筒をかざして日除けにし、小走りで目的地へ急ぐ。
今、何時なんだ? 公園の中央にある噴水広場の、背の高い時計を見上げる。
9時半って。止まってるのか、アテにならないな。
『もうすぐ11時』と服部さんは電話をくれて、PCは10時20分。書類が出来て、ロッカールームでは11時20分、10分後に会った土井さんは、急げとは言わなかった……
炎天下を取り敢えず走りながら、考えが纏まる筈もなく。
何を信じたらいいのか。
ホントに、今は何時なんだ? 走れば5分前に間に合うだろうか?
「珍しい! 船山のくせに15分前行動が出来ているではないか。土井の真似? 優秀優秀!」
服部さーーーん! 会いたかった!!服部さんといれば安心です。良かった……
え?まだ11時45分ですか? よかった、汗がひいてから挨拶出来そうだ。
。。。。。。。。
今日、俺、スマートフォンを家に忘れてきた。
連絡は会社の電話のみ。メールは諦めてください。
地味に困ったのは、時間が判らない事。
社内に居れば、時計くらいどうにでもなると思ったのに。
既存の時計、ことごとく使えねえ……っ! 結局、どの時計が正しかったのか、誰か教えてください。
「船山、ビジネスマンなら腕時計くらいつけなさい。ボーナスで良いやつ買いなさいよ」
……はい。買い物に連れてってください。先輩!
約束の正午、先方の担当者と名刺交換の最中に、俺の腹の虫がグギュウと音を立てた。都会の喧騒にかき消され、人に聞こえる程ではなくて幸いしたが。
俺の身近で、一番正確なのは腹時計だと判明した。
<社長!電波時計にして下さい編 おしまい>
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