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第19話 1【個別包装】
ポケットからスマートフォンを取り出した拍子に落ちた小さな個包装を、船山は素早く拾い上げた。ギザ耳の密閉された包みには可愛らしい天使が張り付いているが、覚えのある人にはひと目で何の包みだか判ってしまう。
周囲に人がいなくてよかった…! そそくさとポケットに押し込み、一度息を吐き切った。
こんなところを他人に見られたくない。今ここで使うことは無いけれど、イザという時のためにポケットに入れておきたいのは、何歳になろうと男子の哀しい性だ。
コレに依存してはいない。もう26歳、そこまで若くない。
上着の内ポケットなら、蓋もあるので落としはしないだろうが、定位置にはしたくない。常に体温で温まっているのもどうかと思うのだ。人肌で温められて、劣化しないか心配になる。
きっかけなんて、ほんの些細なこと。コイツの出番は、いつだって突然やってくる。それも、持ち歩いていない時に限って。
。 。 。 。 。 。 。
買うほどじゃないんだ。でも、きっと使い途がある。……マヨネーズの個別包装が、賞味期限が切れるまで捨てられない。
< 小噺 “個別包装” おしまい >
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