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第19話 2【 会議室[使用中] 】
人目を盗み、給湯も使える一番広い会議室に浸入する。この部屋なら、ブラインドを閉めてしまえば周囲からの目線は完全に遮られるし、なにより角部屋だ。内側から鍵が掛けられるのも大事な点。
溜まった書類を片付ける為、今日は終日内勤と決めた。久しぶりに自分のデスクに座ると、社内メールを使って土井が誘いをかけてくる。
仕掛けたのは、自分なのかヤツなのか。平日の真昼間にもかかわらず、迂闊にも乗ってしまう自分のヤワな理性が恨めしい。
一応いっぱしの社会人。押し通したい我もあれば、メンツもある。でも、時には長いものに巻かれ、指示に従うのも悪い気がしないのだ。ましてや相手が「業界のレジェンド」と呼ばれるものであるならば猶更。巻かれ捲って、その成功への最短コースを歩ませてもらおうじゃないか。
大事な要求を、一字一句聞き漏らさないように留意する。「どこの誰と確かめてそう決めたんだ?」なんて邪推など要らない。求められたまま動く。主義主張をゴリ押しするよりも、相手の要求に逆らわず、全て仰せのまま。こんな悦びは、お子様には解るまい。
「ヤケドするぞ」と事前にくぎを刺される。待ちきれず、やや乱暴に護りを取り去った。こんな薄い覆いひとつで、身を守れると思っているのだろうか。何のためらいもなく、その全てを開放する。
内側は少しばかり慎重に扱わなくては。端から少しずつ捲り上げ、どこまでならいいか駆け引きを楽しむ。内なる乾きは想像の通りで、「邪魔な小物は取り去れ」だの、「開くのはここまで」だの、「一線を超えてはいけない」などと細かな要求が続く。
用意された液体入りの小袋を見ると、自分の知っているそれよりオイリーな印象だった。過去の経験を踏まえて、冷たいまま浴びせるような稚拙な真似はしない。予め外装ごと温め、馴染みを良くするのも大人の余裕ってものだ。
素手で触ったら火傷するような熱さを内に隠し、しばし焦らされる。
マオカラージャケットの肘の辺りをツンと引き上げ、袖口から覗く腕時計の文字盤を確認。
そろそろ頃合いか……。ここで口元に笑みなんか浮かべては、品性が疑われるな。そう思いながらも服部の心は踊っていた。
静寂を打ち破り、鍵のかかった会議室のドアを叩く音が響く。
「服部さん、土井さん、ここですか?開けてください」
呼び出した船山が、時間通りにやってきた。何も知らされていなかった土井が慌てふためく。
「え? 船山? なんで?」
「ん、俺が呼んだ。役に立つんだよ、こいつ」
内鍵を開けると、滑り込むように船山が入室した。
「二人でコソコソしちゃってぇ。さ、これが要るんでしょう?」
なんで僕が持ち歩いているのを知ってるんですか、とニヤニヤ笑い、ポケットからアレを二つ、取り出した。
。 。 。 。 。 。 。
「うわあ、冗談みたいなサイズですね! ホントに食べてる人、初めて見た!!」
記念写真を撮りたくなる気持ちは良く解る。ペヤ〇グソース焼きそばW(ダブル)、その名の通り、2玉分の大きな四角い顔は、なかなかの威圧感だ。栄養表示で1000キロカロリーを超えると知ると、ひとりで挑戦するには敷居が高い。仲間でシェア、が正解だろう。
ましてや、今は食事ではなくあくまでオヤツ。船山の上着ポケットのマヨネーズの個包装を思い出し、マヨ目当てにメールで誘ったのだ。
「大好物って程じゃないけど、たまに恋しくなるんだよね、ペヤ〇グ」
角に残ったキャベツまで綺麗に食べつくし、会議室の空気清浄機を最強にセット。証拠を隠滅し、何食わぬ顔(喰ったけど)で、部屋を出る。
ドアのスライドサインを【空室】に戻すのは、残り香が消えてからとしよう。
<Twitterタグ #物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ より。説明通りに作ってみよう編 おしまい>
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